*short〜短編〜
□月下の狼【中編】
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遠くで…朝を知らせる鶏の声がする...
コーケコッコー...
N「んぅ...」
O「すーっ...すーっ...」
うっすらとまだぼんやりした金色の瞳で辺りを見回す。
するとほとんど見覚えのない場所だった。
すぐ隣には人間が寝息を立てている。
僕はそっと起き上がる...
あれ...何かが額から落ちてきた。
冷たく、湿っている布のようなもの。
N「ひゃあっ...!」
びっくりして反射的に声が出てしまった…
僕の尻尾もブワッとおっきくなっちゃった...///
O「んん...」
N「ひっ...」
僕は慌てて立ち上がり人間を間違っても起こさないように、慎重に僕のお家へ走り去った。
N「ふぅ...」
やっと...自分のお家に帰って来れた...
そういえば、あの家は「俺ん家」とかいうとこだったような...
少し思い出してみたけどやっぱり曖昧だった。
N「ふぅあー...」
起き抜けの体で山を駆け上がって帰ってきたので何だかまだ眠たかった。
N「んぅ...」
気づいたらもう夢の中にいた。
それから少し時間が経って
ドアを叩く音がした。
正直まだ眠かったけど、仕方なく起きてドアを開ければ
やっぱりあの人間がいた。
コンコン...
N「んぅー...」
ガチャ...
N「どちらさまでs...帰ってください。」
O「ひでぇな...折角看病してやったのに」
人間は苦笑いを僕に向ける
仕方ない...名前ぐらいは覚えておこう。
N「あの...」
O「ん?なに?」
人間は無垢な表情で僕を覗き込む
N「なまえ...貴様の名はなんだ」
O「あ、俺?そういえば言ってなかったなー
俺は大野智、君の名前は?」
N「二宮和也です...」
しまった...僕の名前は教えないつもりだったのに...!
でもなんか、こいつに聞かれたら反射的に答えてしまった...
なんだこの大野智という人間は!
うぅ...厄介だな...
O「そっか、和也って言うのかーよろしくな、和」
N「なっ...!」
名前で…下の名前で...呼ばれた...
人間に名を呼ばれるなんて...屈辱の筈なのに...何故か嬉しい...。
それはまるで、母親に優しく名を呼ばれるような、暖かみを含んだ言い方だった。
僕の意志に反して尻尾がブワッと膨らんでしまう...///
O「んははっ...ぷっ...くくっ」
N「な、な、何がそんなにおかしい!」
そんな僕を見て大野智という人間は笑っている。
その時の僕の顔は、嬉しいのか、嫌なのか、恥ずかしいのか、それ以外かぐちゃぐちゃな感情が入り混じった顔で呆然としていた。