少女の物語

□六章『誕生祭』一日目
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宿屋



 太陽が西へ完全に沈み、三日月が姿を現して、夜の街を淡く照らす時。
夜も遅いということで、リナたちは一件の宿屋に泊まることとなった。その宿屋の一階で、老若男女問わず他の客でわいわいと賑わってるなか、リナたちは空いた円卓のテーブルを囲むように座る。


「……それにしても、以外ですね。てっきり人なんていないと思ってました。」


 席についたアメリアは、開口一番にそう言葉を吐露した。その呟きに、ガウリィも賛同して頷く。


「そーだよなぁ。俺はてっきり、もっと暗くて人なんて少数しかいないんじゃないかって思ってたぜ。」

「ま、地図にも載ってないとなると、来る奴なんていないでしょうね。」

「ここに来る道中、俺たちを珍しそうに見ていた奴もいたな。『珍しそう』ということは、旅人が此処を訪れたことがない、ということは無さそうだ。
先程の亭主の対応が証拠だ。」


 ゼルガディスの言う通り、リナたちは宿屋を探すべく街を少し歩いた。見慣れないリナたちに、街の住民たちは珍しそうに通りすぎていったのだ。そしてこの宿屋の亭主の対応は、旅人に向いた対応をしたのだ。


「疑問なのは、旅人が来たことあるのに、どうしてこの場所が地図に載らないかよ。此処にずっといるわけじゃないし、地図に載らなくても噂にはなるはずよ。」

「『謎の神殿』を建設したのがこの街の住民ということが本当なら、その事と何か関係があるのでしょうか…」

「さぁね。とにかく今は情報が少なすぎるわ。明日辺りに分かれて探索しましょ。」

「………」

「……? クレイス、どうかしましたか?さっきから黙って辺りを見回してますけど…」


 先程からキョロキョロと辺りを見回しているクレイスに、アメリアは声をかける。 クレイスは正面に向き直りながらも、不安げな表情のままリナたちに伝えた。


「……なんだか、この街に来てから視線を感じるといいますか…どこか、落ち着かないんです…」

「視線か……それは、記憶と何か関係があるものなのか?」

「まだ何も……。 でも、もしかしたら気のせいかもしれません。自身の記憶が関連のある場所かもしれないので、過敏になってるかもです。」


 クレイスはニコッと笑みを見せる。単なる気のせいかもしれない、と言ったクレイスに、アメリアは頭を撫でた。


「危険がないならいいんですけど…。でも、何か気づいたこととか不安なことがあったらちゃんと言ってくださいね! 私たちは仲間なんですから!」

「アメリア……。――はいっ!もちろんです!」


 クレイスの良き返事と笑顔に、リナたちも自然と口角が上がった。
ふと、ガウリィは食事場をぐるりと見渡し、疑問を投げ掛けた。


「にしても、随分賑わってるよなぁ。何かあったのか?」

「おや、あんたらもしかして旅の人かい?」


 向かい側の席に座っている、白髪を生やした年配の男が片手にジョッキを持ってガウリィたちに声をかけた。


「……そうだが。」

「じゃー知らんでも仕方ないね。この街ではね、明日から三日間、『誕生祭』ていう祭りがあるのさ。」

「『誕生祭』? 何それ。」

「街の建設を祝う祭りじゃ。ま、やることは他と変わらんよ。屋台をやったりパレードをしたりとのぉ。それで今日はその前日ということで、こんなに賑わっとるんじゃ。」

「へーおもしろそうだな! な、リナ!」


 年配の男から聞いた祭りの情報に、ガウリィは興味津々になってそうリナの肩を叩いた。
祭りに興味津々なガウリィに、アメリアは忠告する。


「ガウリィさん、此処に来たのはクレイスの記憶探しですよ。」

「そーよガウリィ。 屋台で食べ物が出るからってそんな、」

「ちなみに屋台をやるのは一般の店から高級店まであるぞい。祭りの屋台の時は、なんと全商品半額で買えるからのう。」

「そうよねガウリィ!折角来たんだから楽しまないとよね! クレイスの記憶探しのついでに祭りも楽しんじゃいましょう!」

「だろ?リナもそう思うよな!」

「ちょ、ちょっとリナさん!?リナさんまで!?」


 『高級店の半額』という言葉にリナはあっさりと手のひら返しの反応をし、ガウリィと意気投合した。
その様子にアメリアが驚愕の表情を示すと、それを見たリナは笑って説明する。


「まいいじゃない。そんなに急いでも仕方ないことだし、私たちがくたばったらもとも子もないわ。 ま、お祭りは記憶探しのついでよ、つ・い・で。後息抜きよ!」

「……リナさん、お祭りに行きたいだけですよね。」

「そ、そんな訳ないじゃない! ねっ、ガウリィ」

「おう!もちろんだ!」


 もはや何を言っても無駄だろうと確信したアメリアは、ハァとため息をついた。
終始そのやり取りを見守っていたゼルガディスは、クレイスに問う。


「お前はいいのか?あれで。」

「はい。みんなでわいわいするの楽しそうです!」

「……そうか。」


 ゼルガディスはクレイスの笑顔を見てフイと顔を剃らしながらそう返した。クレイスも満更お祭りが楽しみなようなので、それ以上は何も言わなかった。
ふと、年配の男がクレイスをじっと見た後、ふいに言葉を漏らした。


「まぁでも、『街の建設を祝う』というのは、表向きじゃがなぁ……」


 年配の男はそう小さく呟いて、グビッとジョッキを傾けた。
 その様子を視界に入れていたリナは瞬き、さて、と呟いたリナは、大きな声を張り上げた。


「まぁ取りあえず、今は腹ごしらえよ!
――おじさーーん!!ディナーセット五人前よろしくーーー!!!」










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