少女の物語

□五章『濃霧の森』
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−濃霧の森−




 深い霧が渦巻き、辺りが霧で包まれて真っ白な森の中、草木が生い茂った道とも言えないような道を進んでいくリナたち。
余りの霧の深さに、アメリアは「うぅ…」とうなり声をあげた。



「霧がすごいですね…。先が見えないですよ……」

「っ、こんな森の奥に、街なんてあるのか?」

「わっかんない。ガウリィ、どう?街らしき物、見える?」

「いや、霧が深すぎて前々見えないぞ。」

「これ、魔法でなんとかならないのでしょうか…? はわっ!」

「おっと、大丈夫か?クレイス。」

「うぅ、は、はい。石につまづいてしまって…。ありがとうございます、ガウリィさん。」

「おう!気を付けろよ。」



 ガウリィに身を起こしてもらったクレイスは、にこりと花が咲いたような笑顔を浮かべてお礼を告げ、またガウリィも、太陽のような笑顔でそれに返答した。

 クレイスがふとゼルガディスの方に視線を向けてみると、ゼルガディスは顎に手を当てて何か考えていた。その雰囲気に、クレイスはゼルガディスに声をかける。



「どうかしたんですか、ゼルガディスさん。」

「……うん、魔法で試すのも一つの手だと思ってな。」

「え?あぁ、さっき私が言ったことですか?」

「あぁ。」

「なら、私、やってみます。魔法を使う感覚を覚えているか、試したいので。」

「それはいいが……大丈夫か?」

「はいっ!やってみます!」

「?ちょっとクレイス、何やって―」



 リナが振り向いたその時、クレイスは片手を天に掲げた。そして、魔力を手の方に集中させる。
そして、



「魔風(ディム・ウィン)!!」


 ゴオオオオオオォォォ!!



 クレイスが呪文を唱えると、天に掲げた手のひらから風が吹き荒れる。
しかし、予想外なことが起きた。放った風の魔法は、疾風を生み出す程度の呪文の筈が、なんと爆風を起こしていたのだ。



「うわっ! クレイスの魔法か?」

「キャアッ!な、何ですか!?この風!!」

「とにかく踏ん張れ!気を許せば飛ぶぞ!」



 木々が今にも倒れるんじゃないかと思うくらいぐわんぐわんと荒々しく揺れ、木の葉が風に煽られ激しく舞う。

そんな中、地面にいるリナたちは、浮きそうになる足を踏ん張って、なんとか耐えていた。
数秒後、魔法の効果が徐々に薄まり、荒々しく揺れていた木々も、次第にゆっくりとなり、やがて止まった。

 風が収まると、木の葉がひらひらと踊る中、クレイスは森をキョロキョロと見回し、霧が晴れていないことにはぁとため息をついた。



「―すみません、この霧は魔法では吹き飛ばせないみたいです。」

「そういう問題じゃないわ!!」

「ふえっ!? あ、あれ、皆さんどうかしたんですか?髪がすごくボサボサですよ?」

「あんたのせいでしょうがああ!!」

「え、え、ええぇ…!? わ、私、魔風(ディム・ウィン)を使っただけなのですが……」



 魔法を放った本人は詠唱した呪文をリナたちに伝えた。
魔風(ディム・ウィン)の効果は、疾風程度の風を起こす魔法だ。霧くらいならとクレイスもそれを承知で放ったつもりなのだが、威力が桁外れだったのだ。しかも、術を放った本人は無自覚ときた。

クレイスのその様子に、リナは盛大なため息を落とす。



「はぁ〜…あんたね、魔法を使う時はちゃんと言いなさい。危うく飛ばされるところだったわ。」

「え、えっと、ごめんなさい。気を付けます。」

「それと、次使う時はもうちょっと威力を押さえること!なんだけど、あんた、もしかして魔力を制御できないの?」

「そんなことは…」

「あ! もしかして、杖を使わなかったからじゃないですか?それで威力を間違えたとか。」

「う、うーん………そう、なのでしょうか。」



 クレイスは若干悩みながらも、アメリアの指摘に同意した。

――コントロールを間違えたつもりは、ないのですが……

クレイスは己の手に視線を下げる。
きゅっと握りながら、ここで悩んでも仕方ないと判断し、気にしないことにした。



「さ、取りあえず進むわよ。今日中に着かないと、色々めんどくさいしね。」



 リナたちは気を取り直し、再び霧深い森の奥へと足を進めていった。









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