COLORFUL WORLD


□第9章:Comes princess of Cyan
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以前訪れた時よりもずいぶんと人が多く賑やかで、町は活気に満ちている。
国王の葬礼は既に行われ、街は祝賀ムードで溢れていた。

「カシの影響でこれだけ野次馬が増えるとは…。アイツ、大丈夫なのかねェ」

見慣れない衣装をまとった人も練り歩き、まるでお祭り騒ぎと化している。道なりに屋台がずらりと立ち並び、風船が空へ舞い上がっている。リリは賑やかな街並みを興味深そうにキョロキョロと見回す。

「あ!ちょっと寄っていい?」

楽しそうにキラキラと目を輝かせるリリの姿を見るのは久しぶりだったから、少しくらい寄り道をしても良いかとクザンは頷いた。

リリは果物屋のテントに入ると、満面の笑みを浮かべながら立ち並ぶ果物を眺めた。山盛りになっているリンゴに手を伸ばすと、同じタイミングで横から女性の手が伸び同じリンゴを掴んだ。

「あ、ごめんなさい。お先どうぞ」

リリはぱっと手を離し、隣に立つ女性へと視線を上げる。

「すみません、よろしいのですか?」

ケープを深く被っていたその女性は、少し顔を出しおずおずとリリのほうを見た。

「もちろん!ノースポールのリンゴ、甘くてとっても美味しいですよね」

「あら、そうなんですか?」

女性は目を輝かせ山積みのリンゴに視線を戻すと店主に言った。

「じゃあ、一袋下さいな。大きい袋で」

上質な布地で仕立てられたケープに深く身を包んでいるその女性は笑顔が素敵で、隙間から覗く水色の髪が良く似合っていた。
にこりと微笑んだその女性はリンゴの入った袋を抱え「それじゃあ」とお辞儀をし、人混みへと消えて行った。

リリもりんごの袋を抱え、テントから出るとクザンに駆け寄った。クザンは袋に手を入れ、リンゴを一つ手に取った。

「今ね、素敵な女性を見かけたの!笑顔が可愛くて上品で、普通の人とは違う雰囲気だった!」

「へェ」

あまり興味もなさそうにクザンはリンゴを一口齧り歩き出す。

「あ、ちょっと待ってクザン。ヒノキが好きなお菓子が売ってるから買ってくる!」

すぐに次の屋台に移動しようとするリリの首根っこを掴んで制止させる。

「遊びに行くんじゃねェんだから‥‥。ヒノキにだって会えるかすら分からねェぞ」

「そっかぁ…」

しゅんと俯くリリだったがすぐにその頭は上がった。

「じゃあ、たしぎさんにお土産買ってくる!可愛いりんご飴が売ってたから!」

「あッ!!」

リリの腕を掴む暇もなく、行きかう人の波をスルスルと抜けて店に向かって行った。

「ったく…こーゆう時は素早いな…」

リリから目を離さぬようについて行こうと後を追うと、横から歩いてきた女が小さく悲鳴をあげた。女が抱えていた大きな紙袋から林檎が二つこぼれ落ちる。

「おっとっと…ごめんよ。お嬢さん」

「いえ、大丈夫です」

地面に落ちた林檎を拾い、ケープを被ったその女に渡す。にっこりと笑顔で林檎を受け取ったその女はよく知った顔だった。

「お前さん、こんなとこで何やってんのよ」

そう言うと女は俺の顔を凝視し、驚いた顔を見せた。

「え‥?!あなたは‥青キジ?!なぜここに‥‥海軍はもう辞めたはずじゃ…」

「そりゃこっちのセリフ。お前さんこんなとこウロチョロしてていいわけ」

「シーッ!!護衛の目を盗んできたのよ。ここは樹木王国と呼ばれるほどですもの。アラバスタとは真逆だから街の様子も興味深くて…」

ネフェルタリ家の王女が一人で歩き回っても安全とは言い難い。それにこの人の多さだ、きっとどこかで護衛が見守っているに違いない。

「お前さんもカシの儀式に呼ばれたの?」

「えぇ、幼い頃に親交があって」

キイ―キイ―と甲高い鳥の鳴き声が空に響いた。何かを伝えるように大きく羽をはばたかせながら二人の上空を激しく旋回している。

「ペ…ペル?!急いで戻らなくちゃ…!それでは」

女は上空を飛び回る大きな鳥を見ると、焦った様子でリンゴの袋を握りしめ足早に去って行った。
間を置かずに小走りでリリが駆け寄って来た。両手に抱える袋が増えている。
リリは大きく息を地面に向かって吐いた。リリが抱える紙袋を持ち上げる。

「ありがとう」

軒を連ねていた出店の終わりに近づくと人混みがいくらかマシになった。真正面にはどでかいノースポールの城が見える。城まで続く大通りは歩行者が皆同じ方向に向かって歩いていた。昼間だというのに花火があがっている。等間隔の街灯には垂れ幕が下がり、紙吹雪と一緒に翻っていた。
リリは垂れ幕に書いてある文字を読んで目を伏せ、浮かない顔をした。あのガキ臭い坊主が王になるのを目の当たりにして、気が気じゃないのだろう。リリは突然何かを思い出したかのように俺の方を見上げた。

「さっきクザンが話してたのって私が果物屋で会った素敵だって言った女性だよ!知り合いなの?」

リリがそう言うと、先ほど「普通の人とは雰囲気が違う」と言っていたのを思い出す。

「まぁな」

「クザンて意外にお友達多いよね」

無邪気な微笑みを俺に向けた。

「意外にってなによ‥」

「だってクザン仏頂面だし。ニコニコしてないとお友達出来ないわよってママが言ってたから」

「おいおい、言うじゃないの。モテまくっていた海兵時代の話を聞かせてやりたいぜ」

「へ〜!男性にもモテてたの?」

「‥‥いや、女によ。何が悲しくて野郎にモテて喜ばなきゃならねーわけ」

「確かに女性にモテるよね。リーフもクザンの事大好きみたいだし」

「‥‥リーフ?」

不思議そうな顔でリリが頷いた。

「うん」

「バルドール・リーフは男だぞ。いや、オスというべきか」

「え?!男の人だったの?じゃあやっぱり男性にもモテるんじゃない」

「嬉しくねェな…」

「私は嬉しいけどな〜」

「あ?なんでよ」

「男女問わずお友達が多いのって良い事じゃない?」

「男女間に友情なんて成立しねェよ」

「するよぉ。コビーとスモーカーさんは友達だもん。ゾロとチョッパーだって、カシも、ヒノキも」

「ほら、成立してねェだろ。友達って思ってるのはお前さんだけ」

「えー?!ひどいこと言わないでよ!」

「聞きようによってはお前さんのが酷な事言ってんだぞ」

「…確かに上司をお友達って呼ぶのは良くないと思ってるけど」

「そこじゃねェよ…」

そんな会話をしているうちにノースポール城の正門へ着いた。正門にはずらりと招待客が並び、門で招待客の確認を受け敷地内に入っていた。そんな行列を見てお行儀よく並ぶ気になんてなれず、裏門に回った。
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