COLORFUL WORLD


□第8章:White chase
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クザンは電伝虫を切った後、大きく溜め息を吐いた。
まさか、インペルダウンなんかに行くとは思ってもみなかった。ロブ・ルッチの件があった隙にこんな事になろうとは。

G5に着いたクザンはどこか懐かしそうに要塞を眺めると、ウェルテよりの海が見える岸壁へと向かった。潮風が体を抜け、コートがひらひらと翻っている。しばらくすると、クザンは背後からスモーカーの気配を感じ、少し振り返り小さく息を漏らした。

「スモーカー…。リリに変なヤツを近づけるなって言ったでしょうが…」

「色々あってそうも言ってられなくなっちまったんだよ」

スモーカーは面倒くさそうに、クザンが立つ横に腰をかけた。芝生がそよそよと風に揺られている。

「あんな面倒な事情抱えた女を押し付けやがって‥‥・」

スモーカーが吐き捨てた煙は海に消えていった。続けてスモーカーは言った。

「治癒能力の事、アンタも知ってたのか」

「あァ?ドフラミンゴから聞いたのか?」

スモーカーは「あぁ」と短く返事をすると、クザンは口角に皺を寄せ、深い溜め息を吐いて地面に座った。

「ノルディがどうとか、あの下衆野郎が好き勝手話していやがった」

「‥‥ノルディの存在も、リリの治癒能力も、全て事実だ」

「もう、今更知らねぇフリは出来ねェ。全部話してくれ」



晴天にカモメが鳴く。こんなのどかな風景と、話している内容が混沌としていて、どちらも現実ではないような気さえした。リリの呑気な笑顔が脳裏に浮かぶ。

「ノルディは悪魔の実の能力者を研究している機関。リリはノルディで血統因子の操作で産み出された。生まれながらにして、チユチユの実の能力を持つ人間なんだよ」

クザンの口から静かに言葉にされた。

「ノルディ‥‥そんな研究機関があったとはな」

「海軍の中でも知っているやつは限られているからな」

「しかし、リリの奴は自分でも治癒能力のことなんざ知らない様子だったぜ?どのくらいの能力があるんだか」

「リリの治癒能力は、本人も自覚していない以上、どれほどの力が出せるかは未知だが、おそらく怪我はすぐに治せるくらいの力は持っているだろう。そんな能力の持ち主を政府が放っておくワケがねぇ。ロブ・ルッチも動き出している。世界政府の耳にはもう既に入っている以上、リリを取り戻すのも時間の問題だ。それに‥‥世界中の海賊共にも狙われる日が来るのも、そう遠くねェ…」

「アンタ闇に通じてんだ。何か方法あんだろ」

クザンは表情一つ変えずに、遠くを見つめた。

「裏で政府がそんな研究をしているとはな…。薬物入りのワインにしても、やりすぎにもほどがあるぜ…」

呆れたように煙を吐き捨てたスモーカーに、クザンは言った。

「リリの能力を開花させるのが目的だとしたら、それは政府の意図じゃねェ。そんな便利なモンが存在するなら、失わなくてもいい命だってあったんだ。ノルディに生み出されたのは、リリだけじゃねェのよ」

「…じゃあ誰の意図でワインを造ったっていうんだ」

スモーカーは横目でクザンを見上げた。まだ沖を静かに眺めていたクザンの視線はスモーカーに移った。クザンはとても優しい表情をしていた。

「お前は、アンドロイドが愛情を持つって信じるか?」

スモーカーは少し考えた後、空を見上げた。真っ青な空に入道雲が伸びていた。

「感情を持つ事が出来るなら、愛情だって持つんじゃねェの」

「ふふ…お前ならそう言うと思った」

クザンが微笑むと、スモーカーは居心地が悪そうに視線を逸らした。

「アンタもそう思うなら、アレどうにかしろよ‥‥文字通りの世間知らずな箱入り娘だ」

そう言って、スモーカーは背後を一瞥した。2人の背後には、垣根に隠れながらソワソワと顔を出すリリの姿があった。
スモーカーは立ち上がり、煙を空に吐き上げる。

「そんな所でソワソワしてるくれェなら、こっち来たらどうだ。お嬢さんよ」

二人の背中を見ていたリリは、急にスモーカーに振り返られビクリと肩を揺らした

「お邪魔かなって‥‥」

「俺の話は済んだとこだ」

スモーカーは立ち上がった。

「さ、たっぷり絞ってもらいな」

リリとすれ違いざまにそう言い残したスモーカーの口元は柔らかな笑みを浮かべていた。
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