COLORFUL WORLD


□第7章:Blackmail
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G5の裏手に10分程歩くと、ウェルテと呼ばれる小さな村がある。海軍とは全く関係ない人々も暮らす普通の村で、G5に所属する海兵達も生活用品などはウェルテに出向き購入していた。
バーや飲食店もポツポツとあり、そのほとんどがG5に所属する海兵達が潤わせていた。私もたしぎさんやコビーとレストランに時折行ける事が楽しみだった。(スモーカーさんは私とたしぎさんだけだと、酔った女同士の会話を聞く事ほど無意味な物はないとか何とか言って来ない。コビーがいると気まぐれで参加する)


クザンとは温泉で会ったのを最後に、なかなか会えずに寂しい日々を送っていたのだが、Navylandの仕事も任されるようになってからは、忙しい日々を送っていた。スモーカーの宣言通り、バーベキューを最後にG5のメンバーは遠征に行ってしまい、スモーカーやたしぎにも会えない日が続いた。そうなると、コビーがインペルダウンへの足取りを後押ししてくれたものの、当然その件は一旦保留となった。

私を突き落としたタナカさんはあれ以来姿を現さないし、テゾーロの姿も見る事はなくなったので問題はないのだが、部屋にあるアタッシュケースに目が留まる度、ワイン造りを再開出来る日はいつになるのだろうと小さく溜め息が漏れた。

Navylandでの仕事はとにかく平和だった。
コビーは毎日、私の仕事の指導や面倒を見てくれていた。テゾーロのように機嫌によって周りに当たる事も、罵声を浴びせる事もなく、穏やかに日々は流れパウダーリムで過ごしていた時のような平穏が心地よかった。
真面目で優しく、仕事に対しても真摯なコビーは一緒に居て楽しい。「男として」は勿論見ているのだが、きっとコビーならゾロと同じように部屋に二人きりになっても、何も起こらないんだと期待をした。ゾロやチョッパーの時のように、本当の友達なのだと。
彼は立場上上司なので、友達と思っている事は心の中に留めているが。



そんな中、クザンの電伝虫が眠そうに鳴いた時は、夢の中なのかと錯覚するほど月日が経っていた。私からかけてもずっと不通だったのだ。
そして突然の朗報に飛び上がる程、胸が躍った。クザンがしばらくウェルテに滞在すると言うのだ。以前、ウェルテでクザンを見かけた時は、村の下見に来ていたらしい。
しばらく滞在した後、また遠くへ航海をしてこの辺にはすぐに立ち寄れなくなってしまうらしい。
そうして、久しぶりにクザンと会える日を取り付けた。

クザンにようやく会える日、朝から浮き足立って仕事の終わりを今か今かと待ちわびた。いつもよりも長く感じた1日の仕事も終わり、足早にウェルテに向かった。
クザンに指定された宿屋を探し辺りを見回す。いくつかの看板を見上げた後、一番端の目立たない位置にあるコンクリート壁の宿屋に目が留まった。
その時、肩に硬い感触が当たった。

「あっ、ごめんなさい…よそ見していて‥‥」

すれ違いざま、長身の男の肘にぶつかってしまった。私の謝罪に男は振り返ると、帽子のツバを少し持ち上げ眉を動かし、視線をチラリとよこした。その男は黒いスーツ姿で深く帽子を被っていて、この辺りでは妙に浮いた格好をしていた。
男は私の姿を確認すると、次の瞬間には私の首元に男の鼻先があった。鼻先が私の肌につきそうな程近く、首元の匂いを嗅いでいる。私は慌てて距離を取った。

「ひゃっ!!な、なんですか?!急に!!」

一瞬の行動に何が起きたのか目をパチクリさせて、リリは身構え後退る。
男は目を細め、改めてリリの全身をじっくりと見た。鋭い目線はまるで観察をしているかのようだった。その瞳に視線を捉えられる。

「おまえ‥‥雌猫の匂いがするな」

「‥‥え…」

それだけ言い残すと男はすぐに視線を外し、誰もいない路地へ足早に去っていった。

「何だろう今の人‥‥不思議な人」

一瞬の出来事にただ呆気に取られる。
呆然と立ちつくしている自分に気付くと、宿屋を探していた事を思い出し、メモした紙に目を向けた。
先ほど目にしたコンクリートの宿屋が、探していた宿屋だった。クザンに指定された通りの角の部屋へと入った。

打ちっ放しのコンクリートで造られたこの建物は無機質で、部屋の中も簡素な造りだった。広い1つ部屋に、バスタブとベッドが区切りもなく置かれている。その為かじめっとした湿気を含んだ重い空間だった。窓も高い天井の近くに縦格子に囲われた小さいものがあるだけだった。窓と言えるものでもなく、かろうじて光を少しだけ取り込めるためだけの用途に見える。その為、昼間だと言うのに明かりを灯さないと部屋全体が薄暗く、心許ない。古ぼけたランプに手を伸ばし火を付けた。澱んだ空気も少しだけ変わった気がした。

ふと入り口に目を向けると、ドアの横にも人の頭一つ分くらいの小さな小窓が付いていた。摺りガラスで出来た小窓には格子が付いており、実際頭を潜らせる事は出来ない。そこからほんの僅かに、廊下からの明かりが部屋に入り込んでいるが、一体何のための小窓なのかもよく分からない。不思議な部屋だ。
取り合えずベッドに腰を掛けると、ベッドのスプリングが歪な音を立てて軋んだ。その音はこの建物には似合っていたが、心を寂しげにさせた。
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