COLORFUL WORLD


□第6章:Lost in the Navy
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聳え立つ要塞の頂上に翳してある海軍の誇りの象徴である旗は、忙しなく常にバタバタと鳴り響く。一体なんと描かれているのかさえはっきりと分からない程に布地は風に強く煽られている。あの旗が大人しく垂れ下がっている時なんて一度も見た事がない。
どういった訳かここは風が強く、長い髪は下ろしておけない程酷く絡まりあう。潮風に含まれる塩分も強いように感じるし、肌もべトつく。
毎朝、旗を見上げるのが日課になってしまった。今日はどの程度の風の強さか、あの旗が翻る音を聞けばすぐに分かる。

「おまえ・・・よく飽きもせず毎朝、旗眺めてるな。何が楽しいんだ?」

ぼんやりと旗を眺めていると、気付けば隣にはスモーカーが立っていて、いつものように燻した香りを漂わせ白煙を纏っていた。
普段のタバコの臭いは得意ではなかったが、スモーカーが加える葉巻の匂いはどこか私を安堵させる。

「あ、おはようございます。」

スモーカーから立ち上る煙は強い風に流されている。
このG5に来てここでの暮らしにも少しずつ慣れ、大怪我をして寝たきりだったスモーカーは、既に仕事に復帰していた。そして、時々私の姿を見つけては、クザンが働いていた時の話をひっそりと話してくれる。ここでは、クザンと繋がりがある事はスモーカーだけしか知らない。クザンはスモーカーの事を「友達」と言っていた。その為か、スモーカーと話す時は心が安らいだ。

「ん‥‥?」

突如何かの気配を感じたのか、スモーカーは誰もいない方向へ振り返ると「じゃあな」とだけ残し白煙の中に消えて行った。
隣には薄っすらと香ばしい葉巻の匂いだけが残っている。その直後、誰かが勢いよく走ってくる足音が聞こえた。振り返るとタシギが必死の形相で駆け寄ってきた。

「あっ!!リリちゃん!!!!スモーカー中将見なかった!?」

「あ、さっきまでいましたけど…」

「また逃げたんですね!?今日は大事な検診日って言ったのに!!!!もう!!」

二人のいつものやりとりだ。スモーカーは検診日になると、決まってタシギから逃げ出す。「もう完治した」と言って、検査を頑なに拒んでいる。そんな日は、タシギは決まって朝からスモーカー探しに追われるのだ。

「あ、ごめんなさい…タシギさん。捕まえておけば良かった。」

「いえ、リリちゃんが謝る事では。」

「今度、検診日に見かけたら捕まえておきますね。」

タシギはここの男性ばかりの要塞の中でも貴重な女性。普段は彼女も外出ばかりでなかなか会えないのが残念なのだが、入ったばかりの時からすぐ優しくしてくれた。見た目は可憐な女性なのだが、とても剣術に長けていて強い。芯の強さを持ち、凛とした表情をする彼女がとても素敵で憧れた。少々男性に対して警戒心が強くなった私は、この要塞の中で唯一スモーカーとタシギさんには無防備でいられる。

タシギはにっこりと笑みを見せ「ありがとう」と言うと、すぐさま険しい形相に変え走り去って言った。
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