蛸の夢

□「目覚め」
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…随分と時間が経った気がする。ゆっくりと瞼を開き、いつもと違う違和感を感じる。いつもなら磯臭く、もっと仄暗い海の底で毎日目が覚めるのに。
見知らぬ天井、匂い、自分には眩しすぎる朝日が目を掠めた。

「…何処だ、ここは…」

いかにも少女趣味な白いベッドの上で小さく言葉を吐き出した。
すると下から階段を登ってくる音が聞こえ少し身構えては、すぐ逃げようと窓に手をかけようとしたが、
それは上手くいかなかった。


「ええと…あの、おはよう。身勝手だとは思ったのだけど、あのまま放って置けなくて…迷惑だった?」


昨日の娘は俺の妄想じゃなかったのか、その彼女が目の前でいじらしく佇んでいた。一気に高揚する気分に、…これじゃあまるで恋じゃねえか。と再びベッドに項垂れて、口元を腕で覆うと見られないよう少し口角を上げ微笑んだ。


「助かった、どうもな。が、…不用意に見知らぬ男を部屋に泊めるのはやめとけ」


世話が焼けそうな彼女に一応と礼を伝えれば、改めて頭の上から爪先までを見下ろしてみる。やっぱり、似てる。

とにかく先ずは自己紹介だ、今は彼女の名前が知りたい。


「…お前、名前は。」
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