蛸の夢

□「出会い」
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立ち止まった娘に、俺は一心不乱に駆け寄った。もしかしたら、もしかするかもしれねえ。…俺はお前に伝えたい事があるんだ。


「……おい、呼んだのは俺だ」
未だにキョロキョロと周りを見渡す鈍臭そうな娘に、年甲斐もなく少し緊張しながら話しかけた。


振り返った娘を見て俺はまた息を呑んだ、そいつは俺が探し求めていたあの人魚と瓜二つだった。


「あら、貴方だったのね。ごめんなさい…気が付かなくって、私に何かご用かしら?」

娘に話しかけられているにも関わらず頭の中での整理が付かずフリーズしかけている自分に到底、娘に言葉を返す余裕などなかった。


「あの…、大丈夫かしら?凄く顔色が悪いわ。お医者さんを呼びましょうか?」

俺が黙っているのを具合が悪いと勘違いしている娘に、やっとのことで視線を合わせ俺は口を開いた。

「……平気だ、悪いな。…ッ」

そう告げた瞬間に俺は過労からか意識が飛んでしまったようだ、その場に倒れる寸前にあの人魚とは違う、名前も知らない娘の緑色の瞳を見つめながら目が覚めてもどうか居なくならないようにと、そればかり考えていた。
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