短編集
□ただ、ただ、暗い井戸の中
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満月の美しい夜。
枯れた井戸の前、一人。
男が涙を流し懇願していた。
赦してくれ、と。
男の涙が井戸の様に枯れ、無表情になると。
男はそのまま
井戸へと落ちていった。
町の有力な武家の主が自殺した
と言う事件は、瞬く間に町に広がった。
遺言書には、
何も書かれていなかった
男の罪を知るものは、
もう、誰一人としていない。
ただ、その武家屋敷の
枯れた古井戸からは
何年過ぎても
夜な夜な男が許しを乞う
悲痛な声がこだまするそうだ。
end