短編集
□花の名を君に
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西宮 夏希(にしの なつき)は、日課の犬の散歩をしていた。愛犬のチョコ(妹命名)は、小さいながらも力強く夏希の手を引っ張る。
「わっ...まってチョコ、そっちは違うとこに出るから!」
いきなりいつもと違う方向に引っ張りだすチョコ。こんなとこばっかり妹ににている。
元のコースに戻ろうとする夏希。だが、ひときわ庭の広い家に、目が止まった。
自分では名前も知らないような美しい華々が、朝露を浴びて神々しく輝いていた。
が、夏希の瞳が捉えたのは、さらに美しい青年だった。
青年は全体的に色素が薄いようで、髪は榛色、瞳は胡桃色。肌は陶磁器のように白くなめらかだった。
「綺麗だ...」
口をついて出たのは、そんな使い古された台詞。
青年がこちらを向いたのをみて、夏希はその台詞が聴かれていたと悟った。
「花に、興味があるんですか」
胡桃色の瞳が眼鏡越しに夏希を捉える。硬質ともいえる微笑みを浮かべた青年に、夏希はふわりと笑って返した。