短編集

□花の名を君に
2ページ/5ページ

西宮 夏希(にしの なつき)は、日課の犬の散歩をしていた。愛犬のチョコ(妹命名)は、小さいながらも力強く夏希の手を引っ張る。

「わっ...まってチョコ、そっちは違うとこに出るから!」

いきなりいつもと違う方向に引っ張りだすチョコ。こんなとこばっかり妹ににている。

元のコースに戻ろうとする夏希。だが、ひときわ庭の広い家に、目が止まった。

自分では名前も知らないような美しい華々が、朝露を浴びて神々しく輝いていた。

が、夏希の瞳が捉えたのは、さらに美しい青年だった。

青年は全体的に色素が薄いようで、髪は榛色、瞳は胡桃色。肌は陶磁器のように白くなめらかだった。

「綺麗だ...」

口をついて出たのは、そんな使い古された台詞。

青年がこちらを向いたのをみて、夏希はその台詞が聴かれていたと悟った。

「花に、興味があるんですか」

胡桃色の瞳が眼鏡越しに夏希を捉える。硬質ともいえる微笑みを浮かべた青年に、夏希はふわりと笑って返した。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ