短編集
□叶うなら、一つだけの願いを
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街灯とイルミネーションに照らされて、街は明るく輝いていた。雪がふわりと降り積もっていく。今夜はホワイトクリスマス...らしい。
公園にある、大きな時計台の下で、陸(りく)はずっと待っていた。
雪をみて、ふと朝、ニュースキャスターのお姉さんが言っていたことを思い出した。
今夜は雪が降るようです。素敵なホワイトクリスマスになるといいですね!
ゆっくりと、しかし確実に身体は冷えていく。寒くて、手がかじかんだ。
吐く息は白く、空気にとけていった。
いくら待っても、来ないことは知っていた。
陸が、恋人の篤紀(あつき)と付き合い出したのは、半年くらい前だ。
陸はずっと、篤紀のことを想っていた。
だが、大学で見かける度に生きている世界が違うと思い知らされていた。
篤紀はいつも女の子を連れていて、いつも笑顔だった。陸にはそれが眩しくて、羨ましかった。
俺も女だったらよかったのに。
せめて、告白してから失恋したかった。
ずっと、そう考えていた。
陸が、実るはずのない恋を諦めようとしていたある日。
「なぁ陸、合コンでねぇ?」
他の人より少しだけ仲の良い翔太(しょうた)
がセッティングした合コンに行くことになった。
「え...俺そういうの苦手...」
「頼むよー、欠員出ちゃってさ、ただ居るだけでいいからさ!」
このとーり!と頭を下げられた。陸は、頼み事に滅法弱かった。
渋々了承すると、翔太は、喜色を前面に押し出し、陸の両手を掴んでぶんぶんした。
「陸!ありがとう!神!」
...陸は、単純だな、と思った。
陸を合コンに参加させた。
陸は、いい奴だ。それに面白い。おまけに綺麗系のイケメンときている。それなのにあんまり人と関わろうとしない。
なんか勿体ないなー、と思っていた。
そんな時この話だ。
丁度いい。この合コンで友人または恋人でも作って欲しい。
お節介だとはわかっていたが、皆に陸と話す楽しさを知って欲しいと思っていた。
最近、陸の事を考えると、もやもやするのは知らないふりをして。
俺、翔太は女の子に連絡する為にスマホの電源をオンにした。