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□死骸に口無し
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 単純にオレのことを好きになって欲しいと、願いはそれだけだった。他には何も望んでいないというのに、オレの好きな奴たちはただの一度もオレのことを愛してると言ってくれたことはない。哀しい。なぜだろうかと呟くと、オレを嫌いなオレの好きな奴が舌打ちする。だがそいつも苛立ったような仕草を繰り返すだけで、前の奴らと同じく、どこが駄目なのか聞こうにも答えてくれないのだろう。オレは冷たい奴を好きになったわけでもないのに、最後にはみんな冷たくなってどこかへ行ってしまった。自分でも可哀想だと思う。オレは誰にも愛されないのかと目を瞑った。


 どうしようもない恋の終わりは案外簡単なものだ。オレは本当に好きで、好きで、だから今回こそは今までの奴らみたいなことにはなってほしくなくて、だからゆっくり近づいた。なのに、オレはやっぱり駄目だったらしい。痛くて気持ち悪いと言われたが、オレのどんな部分がお前を傷つけ不快にさせてしまったのか教えて欲しかった。とにかくオレは受け入れて欲しくて、認めて欲しくて、まだ少しの哀れみを持って見下ろしている瞳にすがりつく。「オレを可哀想に思うなら拒まないでくれ、うけいれて」黒い目は見開かれ、その後一瞬で侮辱の刺々しい色で染まった。最悪だ。早まり過ぎた、オレは、嫌われてしまった。嗚咽を噛み殺し、ぐずぐずと泣く。鬱陶しげな表情に脳髄がずきずきと痛む。ああ、ほんとうに失敗した。

 オレが好きになった奴は、オレのことを好きになってくれない。オレのものにはなってくれないのだ。衣服の上から胸に手を伸ばす。するとそいつは大袈裟なほど眉を顰めた。ごめん、きっとオレに触られるのがとても嫌なのだろう。それでもてのひらは確かに這わしていく。ちょうど、心臓の真上でその動きを止めると、とくとくとこいつが生きている証拠を感じ取れた。「おねがい。オレを好きになってくれ」愛しているから、弟だから、手遅れにはしたくない。「そうしたら、すぐにここから出してやってもいい。約束だ。絶対に破らない」オレは努めて優しくそう言ったのに、そいつはオレにありったけの嫌悪を込めた眼差しで睨んだ。なぜだろう。悲しくて涙が止まらない。「なぜ何も言ってくれないんだ……?オレはどうしたらいい?どうしたら好きになってもらえる?もう何もわからないんだ……」好きになってくれたら、なんでも言うこと聞くのに。愛してるって言ってくれたらなんでもするのに。
「……お前のこと嫌いだよ」
「だって最初から俺なんかみてなかっただろ」、そう一松が呟くから、オレはなんだか指先から血が引いていくような気がして、揺さぶられるような眩暈にひどい頭痛が止まな









 飛ばした意識が戻った頃には、やっぱりそいつも冷たくなっていた。可哀想なオレ。またみんなオレを置いていく。誰にも愛されないオレは、単に好きになってもらいたいって、願いはそれだけなのに。





(冷たくなって口もひらかない、ひらけない?)


160811

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