長編
□01.強きヒロイン
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あの日、あの時から"あの女の子"の事がボクの頭から離れない。ーー 強くて、でも華奢で、なんて可憐な子なんだろう…可愛らしい容姿からは想像出来ない毒舌も、あの子の全てがボクの脳裏に刻まれている。
あの日から数日経った今も、ボクは弱いボクのままだ。殴られても殴られても、母さんを馬鹿にされたって何も出来ないでいるボク。ーー 情けないよ…何時まで弱いままなんだろう?どうしたら強くなれるんだろう?
「オラオラ!少しは抵抗したらどうなんだよ!いつまでもヘラヘラ笑ってんじゃねぇぞ!」
相変わらず、ボクを殴り続ける梅沢くん。ーー どうしてボクを殴るの?…弱い者虐めして、楽しい?
「あーあ、ひでぇなこりゃ」
「なんだテメェ!」
知らない人と梅沢くん達が何やら言い合っている。ーー 朦朧とする意識の中、大きな男の人から梅沢くん達が逃げ去って行く姿を呆然と見つめた。ポツリ、凄いや…と呟いてボクは意識を手放した。
※※※※※※※※※※※※※※※
「あ…れ?」
ここは何処だろう?頭がボーッとする。何かを殴る音…激しく何かがぶつかり合うような音がーー ?!
「…え?!」
意識かハッキリとしてきたボクの目の前には見慣れない風景。
「あ、鷹村さん。目を覚ましたみたいですよ」
「よぉ、大丈夫か?」
「あ、はい…大丈夫です。あ、あの…ここは何処ですか?」
キョロキョロと辺りを見渡してみる。
「見りゃ分かるだろ、ボクシングジムだよ。」
「ボ、ボクシングジム…」
凄いなぁ、ボクシングってこんなに迫力があるスポーツなんだ。ボクはリングの上で殴りあうその姿に釘付けになった。
「目が覚めたなら、とっとと帰んな。オレは弱い者イジメなんざする奴ぁ大っ嫌いだがな、やられっぱなしでダンマリきめこむ奴にもムシズがはしるんだよ!」
ーー ボクだって、ボクだって…好きでダンマリをきめこんでるんじゃない。
「分かりました…ありがとうございました。……ぅ…うぅっ……」
悔しくて、溢れる涙を制服の袖でゴシゴシと拭っていると後ろから物凄い力で襟を掴まれて引き戻された。
「面白ぇ事させてやるから、ちょっとそこで待ってろ」
ボクを助けてくれたであろう熊のような男の人は紙とペンを取り出しては何かを書き始めた…それをペタリ、とサンドバックに貼り付ける。
「ほら、思い切りコイツを殴ってみろ!スッキリするからよ!」
「に、似てな……ぐぇ…!」
言い終わるより先に、首を絞められた。サンドバックに貼り付けられた梅沢くんらしき人を見てニヤリ。スッキリするならと思って試しに殴ってみる。
「もっと本気で殴れ!!」
( い、痛いよ!ボ、ボクの急所が…! )
ーー 蹴られた急所を抑えて、じっと梅沢くんに狙いを定める。本気で、思い切り…!
ドン!ーー 心地のよい音が響いた。梅沢くんの顔は痛そうにクシャクシャになっている。
「もっと踏み込んでみろ。腰を捻ってな。そんで腕は内側に、こうだ。」
踏み込みを強く、腰を捻って、腕は内側に…
ーーー ドスン!
「……!」
ジムの空気が凍りついた。でも…でもーー
「今の見ました?!これ、本当にスッキリしますね!サンドバックって思ったよりも硬いんだなぁ…」
「お前…ちょっとこっち来い!」
強引に腕を引っ張られる。拳に走る痛み。サンドバックに貼り付けられた梅沢くんは跡形もなく、散っていたらしいーー