長編
□01.強きヒロイン
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( 幕之内 視点 )
いじめられっ子のボクの前に現れたのは、
ーー 小さな、可愛いヒーローだった。
ボクの家は「釣り船 幕之内」、その名の通り釣り船屋を経営してるんだ。ボクの父さんは小さい時に亡くなったから今は母さんと二人暮らしをしてる。
家の手伝いばかりで友達なんかいなくて、挙げ句の果てには同級生にいじめられる始末だ。
途方に暮れて帰り道をトボトボと歩いていると聞き慣れた彼の声に呼び止められた。
「よぉ、一歩」
「う、梅沢くん…こ、こんにちは!」
弱々しく挨拶をした後、道路脇に避ける。
今日は大人しく素通りしてくれるかな…ーー
「また臭うな?ミミズの臭ぇ匂いがよ」
またか。この人も懲りないなぁ…
「あはは…ボクの家は釣り船屋だから…」
その場凌ぎのヘラヘラとした笑顔を浮かべる。梅沢くんは変わらないボクの態度に腹が立ったのか、突っ掛かってきた。
「い、痛いよ梅沢くん…」
「偉そうに文句たれるお前が悪いんだろ?!」
梅沢くんは躊躇なんて言葉を知らないかの様にボクを殴る。痛い、痛いよ…どうしてボクを殴るの?…何も出来ないでいる自分が情けない。
『ねぇ、』
そんな時、突如に聞こえた"女の子"の声 ーー
「え…?」
「あ?何だこのチビ。子供は引っ込んでろ!」
『どっちが子供なんだか。3対1で弱い者虐めしてカッコ悪いとか思わないの?』
あああ…!う、梅沢くん達にそんな事言っちゃダメだよ…!
「何だと?!このアマァ!テメェ等、やっちまえ!」
「え…?!あ、相手は女っすよ?!」
「いいから、やっちまえ!」
もうダメだ…!そう思ったボクの目の前で予想もしない光景が起きていた。
「ぅ…えぐ…」
図体が大きくて柄の悪い梅沢くん達が、小さな女の子の足元に突っ伏している。い、一体何が起きたんだろう…?
『どうする?…まだやるってんなら相手になるけど。』
綺麗な折り目のついた同じ学校のセーラー服のスカートをふわりと風で揺らす女の子にボクは釘付けになっていた。
なんて気の強い女の子なんだろう。こんなに小さくて、華奢な体なのに…あっという間に梅沢くん達を倒しちゃうなんて。
「お、覚えてろよ…!」
顔を真っ青にした梅沢くん達が慌てて走り去っていく姿をボクは呆然と見つめる事しか出来なかった。
「た、助けてくれて、ありがとう」
『別に助けた覚えないけど…君も君、何でやりかえさないの?悔しくないわけ?』
「そ、そんな事ないよ!け、けど…ボクは弱いから…」
自信のない、か細い言葉をボクはポツリ、ポツリと紡いでいく。
『弱い者虐めする奴は嫌いだけど、虐められてるのにヘラヘラ笑って何もしない奴は…もっと嫌いだから。』
可愛らしい顔立ちとは裏腹に、凍るような目付きで冷たく言い放ったその子はそれだけをボクに告げると去っていった。