短編

□天の川の先に…
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現在地、タイ。


バタン、と扉の閉まる音が部屋に響いた。誰が帰ってきたか、なんて事は分かりきっている。


「……ただいま。」


『お帰り、一郎。シャワーは?』


「ジムで済ませたよ、飯は?」


『ごめん、もう少し待って?…あ。タオルとTシャツ、今日使った分ソファーに置いといてくれる?後で洗濯するから!』


分かった、と短く返事をした彼はノソノソと荷物から汚れた衣類を取り出し始めた。


私はその隙に出来上がった料理を机の上に並べていく。


『ご飯出来たよ、食べよう?』


「腹減った……」


タイへ武者修業に来ている彼の練習はハードなものらしく、私の向かいの席に座れば掌を合わせ、早々と食べ始めた。


『どう…?』


「……」


聞いても何も答えない彼、いつもそうだ。


素直には言ってくれない。


目だけは察しろよ、と私に向けられている。


『……美味しくない、かぁ……』


わざと残念そうに、そう言ってみる。すると…


「美味い」


ぶっきらぼうにそう答えた彼は空になったら皿を見てご馳走様、と呟いた。


『ふふ、良かった!』


※※※※※※※※※※※※※※※


このまま寝るのは、つまらない。


『ねぇねぇ、一郎。今日は何の日でしょう!』


「…?お前の誕生日…じゃねぇよな、記念日?でもねぇか…何だっけ。」


『……もー…七夕だよ、七夕!織姫様と彦星様が1年に一度だけ会う、大切な日!』


ぎゅーっ、と強く抱きついてお願いする目で見つめてみる。


「何だよ、抱きしめ返して欲しいのか?」


『違うよ〜、まぁそれもして欲しいけど』


そういうと取り敢えず抱きしめ返してくれる彼。


「じゃあ何だよ、キスか?」


『それもして欲しいけど違う!』


私の額にキスを落としてはじゃあ何だよ、と不機嫌そうに眉をひそめる彼。


『あの、ね…疲れてるのは分かってるんだけど……』


「ヤリてぇ、とか?」


『そ、それもして欲しいけど違うの…!その…あ、天の川見に…散歩行きたい……』


恥ずかしくなってボソボソとそう言うと笑われた。
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