短編
□雨上がり
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「今日はジム休み」
彼は其れだけ呟くとテーブルの上のTVのチャンネルに手を伸ばしては電源を入れる。
そうならそうと早く言えよ、と内心思う私を他所に時間的にも終盤に差し掛かっているであろうサスペンスドラマを見始めた。
『ふーん…じゃあ今日泊まってく?』
「最初からそのつもりだけど」
「犯人はお前だ!」と犯人を指差す刑事を真剣な目で見つめる彼は当たり前だろう、といった風な口振りだ。
『じゃあ買い物行ってきて、晩御飯ないよ』
「……嫌だね」
一向に動く気配のない彼にカチンとくる。
お前は男は金を稼ぐものだと思い込んでいて家では地蔵の様に動かない60代のおっさんか!と心で思うが、我慢我慢。此処で怒っては負けな様な気がした。
『じゃあ行かなくていいよ、一郎だけ晩御飯抜きね』
「…………」
案の定、黙り込んだ。
嫌な事をされると直ぐに黙る。
暫くすると溜息を吐いては言葉を発した。
「分かったよ、一緒になら行く」
雨はどうなったかなと思い、ふと窓から空を見た。
気づけば雲の隙間から陽が差している。
『天気予報、今日は大外れだね』
「……そうだな」
2人で窓から空を見上げていると、サスペンスドラマを終えたテレビはニュースに変わった。
「来週には梅雨明けするでしょう」と述べるお天気お姉さんの声が部屋に響く。
『今日は何が食べたい?』
終始、普段と変わらない言葉を交わす2人。
玄関へ向かう私は梅雨明けへの期待に胸を膨らませていた事だろう。
➡ あとがき。