その他

□忍びたいけど上司が邪魔をする
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【わたしは忍】

わたしは忍
名は那前

畏れ多くも、日ノ本一の兵と名高い真田の旦那様を主と仰ぐ誉高き真田忍隊に席を置かしていただいております。

婆娑羅はもっておりませんので、うちの隊長たちのように真っ昼間から戦地を駆けるような無茶はできません。

私の仕事は夜間の偵察や索敵などと言ったまぁ普通の忍らしい仕事なのです。

いいですか、決して、決して私たちが強くないから地味な仕事をしているわけではないんです。
これが本来の忍というものなのですからね。
むしろ隊長たちがおかしいんですよ。
なんで忍なのにあんな目立つ格好でちょろちょろするんですか。
忍なのになんで敵方に顔ばれしてるんですか。
いっそ忍やめて武人にでもなればよろしいのに。



なんででしょう、自分の隊長なのに文句しか出てこない。

いけないいけない、あの方は素晴らしいお人。
あの方は蒼天疾駆。

あの方は天才忍者。

あの方は真田様のオカン………ん?


いや、間違ってないのでよしとしましょう。

『いや、待って。間違ってるから、完全に間違えてるからね那前。主に最後。』

おや、いつの間にいらっしゃったんだ隊長、しかも私の心を読んでいるとは…さすが隊長だ。

『ねぇわざと?完璧に口に出してるけど、わざとなの?』

「え、口に出てましたか私」

『すっとぼけやがったこの子!馬鹿にされた気がする!俺様上司なのに!』

「あー今日も幸村様は元気だなー」

『しかも無視!』

こんな私と佐助さんの日常





『ゆぅうううきむるぁあああああ!!!!』

『ぅおぉおおおやかさばぁああああああ!!!!』

『ゆぅうううきむぅううううるぁあああああ!!!!』

『おぉおおおやかさばぁああああああ!!!!』



ご機嫌麗しゅう、皆さま。
はい、那前でごさいます。

今日も健やかに真田の旦那さまは武田の大将と晴れやかな空の下、熱き拳で語らっていらっしゃいます。
足軽さんたちは“殴り愛”と呼んでいるそうでごさいます。
なんとも言い得て妙。
あぁ、間違っても混ざりたいなんて言ってはいけませんよ、死んでしまいますから。

『もー!それくらいで止めてよお二人さん!!その壁の修繕にいくらかかると思ってんのさ!?』

そこへ果敢にも飛び込む迷彩服の青年がひとり

そうです我らが隊長です。
ほんと、お疲れさまです。
アレを止められるのは隊長しか居ないと思っています。
たまに隊長ですら止められない時も合ったりしますが、他に止めに入った方々より回復が早かったのでやっぱり隊長は凄い人だと思います。

いや、そもそも隊長は素晴らしい方なんですよ。
強い婆娑羅をお持ちになり、純粋な忍としての腕も群を抜いていらっしゃる。
加えて旦那さまの扱い方も心得てらっしゃる。
旦那さまを叱咤する様はまるで賢母のよう……うん。
まぁとにかく隊長は凄いお方でごさいます。

本人には申しませんよ、調子にお乗りになるので。


―――――――


私の今日の仕事は隊の在庫確認です。
当番制なので月に一度程まわってきます。
元来暗がりと湿気のにおいが好きなもので、在庫確認は好きな仕事のひとつでごさいます。



「ひぃ、ふぅ、みぃ、……」

ものを数えて紙に写すだけの仕事ですので、いつも通り淡々と作業しているところに、珍しく隊長がいらっしゃいました。
何故か割烹着を着ながら。

『あー、那前さ、ソレ終わったらちょっと厨のとこ来てくんない?』
「?…はい、了解しました」

何気ない風に返事をしたものの、しばらく私の頭は疑問符が支配していました。
いやだって、仕事場に上司が仕事着の上に割烹着着てなんでもないような顔で話しかけてきたら皆さまどうしますか?
引くでしょう。
そうでしょう。


道具の在庫の確認が粗方済んだのでなるべく急いで厨に向かうと、私を出迎えたのはやはり割烹着を纏った隊長と、私たちが挟む卓に並んだ甘い匂い。

甘い……菓子か?

『ホラ、この前アンタ、旦那に付いて独眼竜のとこ行ったじゃん?』
「…はい、行きました」
『その時毒見で食べた菓子、覚えてる?南蛮のやつ』
「はい、美味でございました」
『そ?なら話ははやいね』
「いえ、全く話が見えてきませんが」

あの時食べた菓子は、いたく旦那さまのお気に召したらしい。
『お館様にも召し上がっていただきたいものだ…佐助、どうにかならぬか?』
と仔犬のような眸できゅんきゅんと鳴く旦那さまを隊長が無下にできるはずもなく、材料も作り方も判ってはいるが味がいまいち記憶にない。
でも奥州までわざわざ聞きに行くのもなんだか癪。
あ、毒見したの那前じゃん。
アイツに味見させよ!

話の大筋はこういうことらしいです。
理解は…しましたが…


『はい、あーん』
「それをする意味はないと思いますが隊長」
『あーん』
「…自分で食べたいのですが」
『だめ、隊長命令』
「…………」






あの南蛮の菓子は、武田の大将にも好評だったようです。

え、私?

本人に奥州で食べたのより美味しかったなんて、絶対言ってやりませんよ。
調子にお乗りになるので。


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