その他

□団子屋で働く夢主
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【とある団子屋の独白】

やあやあ皆様本日はお日柄もよく。素晴らしい団子日和だと思いませんか。
どうですうちの団子でも一本?
いりませんか、そうですか…



はじめまして。わたくししがない団子屋の那前と申します。

今は群雄割拠の戦国時代と世間さまは申しますが、いっかいの町人であるわたくしには団子の売り上げが下がる少々厄介なものとしか思えません。

というのも、うち一番のお得意様である源次郎様は、近くであれ遠くであれ戦がはじまると全くお店に顔を出してくれなくなります。

源次郎様は一度の注文で他のお客さま五十余人分の団子を頼まれます。つまりは源次郎様お一人いらっしゃるだけで売り上げがどどん!とあがるのです。……べ、別に銭だけが目的ではないのですよ!?

最初は、あんなたくさんご注文なさるのでご友人と召し上がるのかと思っておりましたが、ご自分だけで完食するのをこの目で見てしまいまして。

そのときの源次郎様のなんと幸せそうなこと……あんな良い食いっぷりははじめて見たかもしれません…

聞くに、源次郎様は甘味がお好きなようで色々な甘味屋を訪れているのだそう。近頃はこの団子屋がお気にいりだと申されました……

そんなことを聞いてしまえば、団子屋であるわたくしの心は桜が咲き乱れるほかありません。

それからは源次郎様がいらっしゃるたびに度々おまけなんかしたり新商品の味見なんか頼んでしまったり。

気づけば、源次郎様がお急ぎでないときは二人で世間話なんかする仲になってしまい、これを世間様では友と言うのでは…と独りでニヨニヨするほど、わたくしは源次郎様の人物が好きになってしまったようです。



さて、戦続きで源次郎様もお仕事で忙しく甘味を食べる暇がなかったのでしょうが、近頃は戦の知らせがなさそうですので、もしかしたら今日は来てくださるかもしれません。……そういえば、見ればいつも帯刀はしていらっしゃいませんが源次郎様はお侍様なのでしょうか。


………詮索はいけませんね。わたくしはしがない団子屋。

今日は源次郎様がいついらっしゃってもいいよう、仕込みは完璧。


さて、今日も一日。
お仕事頑張りましょ。






【団子屋と日常】

皆様ごきげん麗しゅう。
葉桜が心地好いですね。
今日もせっせと団子を売っております団子屋那前でございます。

物騒な時代でありますが、わたくしの住む町は素晴らしいお殿様のおかげでここらいったいでは中々穏やかなのだそう。

平和なおかげでうちの店の客層は幅広いものです。
今店のいちばん日当たりが良い席に座っている婆様は今秋で九十になるらしいのですが、何故かわたくしより大食らい。今日はみたらし七本ぺろりと平らげていらっしゃった。婆様の机をはさんで向かいに座っているヨネちゃんはそろそろ臨月に入ると言っていました。
『ここの団子みたいな児を産めよって家族が言うのよ!』
と、嬉しいことをいってくださいます。笑顔が似合う彼女のことです。きっと元気な児を産んでくださることでしょう。

……ふふふ、やはり穏やかな日常というものは良いですね。


ここに源次郎様がいらっしゃれば、もっとしあわせなのでしょうね…

源次郎様元気かなぁ…




がしゃんっ

『も、申し訳ございませんっ!!』

穏やかだった店内に響いたのは陶器の割れる音と若い女の焦ってうらがえった声
あれは最近雇った女の子の声。真面目で元気な子だけどちょっとそそっかしいところがあるから、お客さまへの粗相がないように注意して見てたのに。ぬかったのはわたくしのほうか。

(音は入り口か…謝って済めば良いがなぁ………無理そうだな)

音のぬしはやはり割れてもう使い物にならない湯呑み。女の子のお相手はどう見ても腕っぷしに自信のありそうな流れ者。
お茶のこぼれ方から観るに彼女はわざと脚を引っ掛けられたのだろう。
にたりと笑うアレは悪質であまり喜ばしくない部類だ。早々にお帰り願おう。

「申し訳ございませんお客さま。お怪我ございませんか。御代は結構でございますから、どうぞご容赦を。」
なるべくおとなしそうに、申し訳なさそうな声色で。下手に刺激しなければ無銭飲食で済んでくれるだろう。

『あんたがここの店主かよぉ?随分ぬるいの雇ってんだなぁおい』
「はい。総てわたくしの至らないせいでございます『ち、ちがうんです妙地さん!私がそそっかしいのがいけないの!』

…頼むタヨちゃん確かに君はそそっかしいけど今は静かにしててくれ。

『ほら、ソイツもこう言ってるしよぉ?そいつに償わせるのが一番いいんじゃねぇのか?』

ほらこう言う輩がいるから。あぁめんどくさいことになってしまいました…

「こいつはつい最近店に入った新顔でございます。責任はわたくしがとりますのでどうか、どうか」
タヨちゃんを背に庇い男に頭を下げる。さっさと帰ってくれないか。

『なんだよあんた…それじゃあ俺が悪いみたいじゃねぇかよ?あん?』

がしり、と

「ぐっ……」
男に肩を掴まれる
そんな土まみれな手で触らないでくれるか。洗濯物が増えるだろうが。

『訂正しろよ。そしたら小娘一人で手ぇうってやらぁ』
ぎりぎりと、だんだん力がこめられていく。

「ぎっ………ぐっ…」

あぁ、骨が砕けるかも知れない。でもタヨちゃんをこんな輩に渡す訳にはいかないんだ

(片腕でも団子ってつくれるだろうか…)

意外といけるかも知れないが、もし源次郎様がいらっしゃったら作るのが間に合わないかもしれない…それは困ります…

うぅ…申し訳ございません源次郎さ『無事でござるか那前殿!』



はっ、と

聞き覚えのある声のほうを向けば

今まさに己が心の内で謝罪した人で

どうしてここにいるのか より


何故肩の痛みが消えたのか より


何故貴方の肩の向こうでさっきの男が寝そべっているのか より…




「源次郎様って、赤が似合うんですね」




【団子屋と虎の若子】

結局あの男は、源次郎様よりあとに来た屈強な方々に担がれて何処かへ連れていかれた模様です。

嬉しいことに損害は湯呑み一つで済んだのですが、あのあと自身を責めるタヨちゃんを泣き止ませるのに一刻費やすというなんとも微妙な幕引きとなりました。

「じゃあ…皆さんが言っていた真田様って源次郎様のことだったのですね。」
『うむ……黙っていて申し訳ござらん。』

あぁ…源次郎様の頭に垂れ下がった耳が視える……

「良いのですよ。これまではお忍びだったのでしょう?騒ぎになってはいけませんからね。」
赤の武装格好いいです
そえいえば、心の目がうつす耳がぴんと立つ

『本当は、着替えて行こうと思うたのだが…試練帰りの抜け道から、貴殿が流浪人に絡まれているのが見えてしまい、助けねばと、体が勝手に……』

そうか、

それは

どうしましょうすごく嬉しい

あぁでも源次郎様の手をこれ以上煩わせるわけにはいきますまい


「源次郎様はおやさしい方でございます…しかし心配しないでくだ『そ、某が!ゆ、ゆゆゆ友人である貴殿を心配し助けたいと思うのは!むしろ当然のことでござる!!』……友…人……?」

え?

源次郎様が?

わたくしのことを

友人だと

おっしゃってくれただと?

『貴殿と共に団子を食べながら話すのが何故かとても楽しいのだ…さす、部下に言ったところ、それは友と言えるものだかららしいと……ゆ、故に、某は貴殿と友人になりたいと思い…そ、その…』
突然源次郎様がすくり、と立ちあがる。
わたくしの前に向かい合わせ背筋をぴんと伸ばす…

いきなりどうしたんでしょう源次郎さ『那前!!


俺と!




友人になってくだされぇえ!!!』




『……へ?』



がばぁ、と
音が出そうなほど勢いで源次郎様は頭を下げ右手をこちらへ差し出した。

すごく口説かれている気しかしないのだが、これは一応友人の承認を得るためのものだ。
友人一人つくるのにいちいちこれをやっているのかと思うと、恋人のときはどうなってしまうのかと可笑しくて仕方がない。


「源次郎様、友人というものは、なりたいと思った時点で既になれているものだと、誰かが言うておりました。」

源次郎様の右手をわたくしの両の手で包む。

「ならばいっそ、親友とやらになってくださいませんか?」

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