その他

□夢だからかみんなやさしい
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銀髪殺戮ポエマー成代(という夢だと思ってる)リーマン




さえないサラリーマンを絵に描いたら、それが俺。
そんなやつにだって夢を見る権利ぐらいはあるだろう。今見てる夢も、そんな権利のうちのひとつでしかない。

夢の中なら何だってできる
何にだってなれる
それこそ、夢の中でならアニメのキャラになって自分の思うまま好きなことができる
ただ人間は、自分が死ぬ夢は見れないらしい
なぜなら、人間は生きている限り自分の死と言うものを体験できないからだ
危ないと思った時に目が覚めた
死ぬ直前で目が覚めた
よく聞く話だ
だから俺も、夢の中の自分が死にそうになったときにこの夢も終わると思ってたのに

『ジン、先週頼まれた分の報告書です』
「……ああ。ご苦労、バーボン」

何故かこの夢、なかなか終らない。

気がつけばそこにいて、誰に何を説明されるわけでもないのに、自分が夢のなかではどういう人間で、何をしていて、これから何をすべきなのかも自然と理解し、実行していく。使ったことのない銃を左手で扱い、吸ったことのない銘柄のタバコを吸い、飲んだこともない酒を飲む。
夢とはそんなものだ。

好きなマンガの好きなキャラクターになれたのは嬉しいが、俺の妄想力がたくましいのか何なのか知らないが、なんかこれじゃない感が凄い。
夢にしてはグロいし疲れるし、眠くなるのに目は覚めない。
身体は休まっているはずなのに夢の中で動き回ると動いた分だけ疲労が溜まる。かといって夢のなかで眠りについてもまた夢のなかで目が覚める。しかも夢は同じ内容のままだ。そろそろ飽きる。でも起きない。あと髪の毛めっちゃ重い。

『ジン、貴方また寝てませんね?何時にも増して隈がひどいですよ。どこぞのニット野郎の真似でもしてるんですか?』

そう言いつつ隈になっているのだろう俺の目の下を、赤子にでも触れるかのごとくそっとなぞるバーボンこと安室こと降谷。

「今度、リラックス効果のあるハーブティでも淹れて差し上げますよ」
「……いらねぇよ」

さすがにそこまでは…夢だからってサービスが過ぎるぜあむぴよ……

どうせ夢だしってことで構成員に優しくしてみたりノック絶対殺すマンにならなかったりした結果、周りがなんか俺にやさしくなった。原作に、ジンが周りから畏怖されこそすれ親しまれるなんて描写は無かったはずなんだが。まぁ所詮は夢だしってことで無理矢理納得してる。
この間なんてベルモットお姉さんにヘッドスパしてもらったんだぜ。絶対原作のジンは他人に頭なんて触らせないんだろうけど、美女からのヘッドスパという誘惑に負けて定期的にしてもらうようになった。夢だしってことで許してくれ、めっちゃ気持ちが良いんだよ……

こんな感じで良いことだってあるのだが、そうじゃないこともある。
最近の(そもそも夢の時空間に最近もくそもない筈なのだが)悩みは、時々この安室のように、突然始まる周りからの寝ろ寝ろコールがうるさいことだ。いやいや現在進行形で寝てるっての。逆に寝過ぎの域だわ。
ウォッカなんて誕生祝いにすっげえいい笑顔で安眠枕とアイマスク贈ってきやがったんだぜ?まぁだいじに使わせてもらってるがな。ありがとよウォッカ、目が覚めたら同じメーカーの探すわ絶対。

あ、あと何より怪我したときが痛い
キャラがキャラだし、撃たれたり切られたりしたとき血が出るのはまぁ良いんだよ、仕様だしな。
だけどその患部がちゃんと痛むのはちょっと嫌だなって思う。リアルで撃たれたらこんなもんじゃないのは分かるんだが、痛いものは痛い。
夢のなかで痛いと思ったら現実でそこをぶつけたりしてるんだろ?現実の俺どんだけ寝相悪いんだって話だ。
起きたら身体中痣だらけとかいやだわーてかそろそろ起きなきゃ不味いんじゃねーの?今いったい何時なの?明日(もう今日か?)も普通に仕事あるんだけどなー

「……いつまで寝てる気なんだ、俺は」



────────


ジンという男についての噂は、潜入した当初からなにかと耳にしていた。

いつも黒い服を着ているだとか、死人のように肌色が悪いだとか。
死神のように冷たい眼をしているだとか、裏切り者には容赦をしないとか。
組織への忠誠心は凄まじく、敵対した人間に何発銃弾を撃たれようと怯まず突っ込んでとどめを刺したとか。

自分の目で確かめてみて、概ね噂通りの人物ではあったが、いくつかの噂は訂正する必要があったのだと、後に知ることになった。


ある日ジンほか数名と任務にあたっていた時だ。
叩けばホコリしかない企業に出向いてゆすりをかけ、組織への援助をあおぐ算段だった。組織は若干名の社員を人質にとれば交渉が有利になるだろうと考えていたが、この企業は組織が思っていたよりずっと人の価値が低かったらしい。企業の社長サマはその人質もろとも僕たちの存在を抹殺しようとしてきた。
分かりやすくいえばどんぱちである。
奇襲をかければいけるかもしれないと思っていたのだろうが、相手が悪かった。
今回の指揮をとっていたのがジンだということがどういう意味を持つのかを、社長は考えるべきだったのに。
彼はよほどのことがない限り手放しで他人を信用などしない。今回の相手については言うまでもない。
相手に予測されていた奇襲は、既に奇襲とは言えないのだ。
そうして組織による一方的な蹂躙は、つつがなく行われていった。



コードネームをもらったことで、無意識に気が緩んでいたのかもしれない。
隠れていたらしい取りこぼしの銃口がまっすぐ自分に向けられているのに気づいたのは、相手が引き金を引くのと同時だった。
避けきることは叶わないと一瞬後に来る衝撃と痛みを覚悟し、反射で目を閉じてしまった。

「……チッ、取りこぼしがいたか」

しかし実際自分におとずれた衝撃は、誰かによって背をドンと押された程度、痛みなんて皆無だった。
次いで聞こえたのは先程とは違う狙撃音、取りこぼしだろう男の呻く声、倒れる音、男の体液の飛び散る音。

「……これで仕舞いだな、撤収するぞ」

すぐそばで聞こえた声で、庇われたのだと理解した。
僕と一番近い位置にいた組織の構成員は、一人しかいない。

「…ジン、貴方なんてことしてるんです!」
「問題ない。企業に恨みのある団体の仕業に思わせる手配は既に終わっている」
「そう言うことじゃありません!」

いつも纏っている黒のせいで遠目からでは分かりにくいだろうが、すぐそばにいれば彼の右肩が血で赤黒く染まっているのに嫌でも気がついてしまう。

「…あぁ、これか。血量的に、たいした血管には当たってねぇだろ。多分」

恐ろしいほどあっけらかんと答える彼に、なんと声をかけるべきなのか、一瞬、考えることができなかった。

─────────

待機していたとは言え、いやに準備が良い医療班にジンが引きずられていったのと入れ替わるように僕の隣に立ったのは千の顔を持つ魔女、ベルモット。

「あなたなら察しはついてると思うけど、痛覚がすっごく鈍いのよ、彼」

ジンとは組織の幹部同士長い付き合いのある、彼女の話だ。
彼の今までの言動を顧みるに考えとして無かったわけではないが、いざ答えとして突きつけられるとどういう顔をするべきか迷う。
今回のようなことは昔からたびたびあったのだという。酷いときには、大量出血による貧血でぶっ倒れ、治療を受けるまで腹を2発も撃たれていたことに気づかなかったらしい。全身の精密検査を受けても、痛覚異常の原因は不明だったのだという。

「治療が終わってすぐ、彼何て言ったと思う?『俺ァまだ起きねぇのか、随分と長ェ夢だな』ですって。さすがの私も驚いたわ」
「……それではまるで、この世界が彼にとって夢の中だとでも言っているようにしか聞こえませんね…」
「ええ、だから見ててほしいのよバーボン」

「彼が自分で“起きようと”しないようにね」

彼、本物の死神に仲間と間違われて、いつか拐われちゃいそうなんだもの。
そう呟いた彼女の目線は、治療を受けているジンにそっと向けられていた。

「……勿論ですよ」


─────────


──逃げ場はもう、あの世しかないようだ……───

────じゃあな、零…─────



スコッチはNOCである、という情報が回ってきたのは、メールが届いたすぐ後だった。


ああ俺は、また大切な人間を失うのかと

そう、思っていたのだが


「な、なんでお前生きてるんだ?」
「いや、俺もイマイチ理解は出来てないんだが……」

近場で一番死に場所に向いている建物の屋上に着いた俺の目の前には、弾が全部抜かれた拳銃と、そのそばで芋虫のように縄でぐるぐる巻きにされ転がっている件の幼馴染み。

「…と、とりあえず移動するか」
「そ、そうだよな」

急いでセーフティハウスに担ぎ込んだ芋虫の話を要約すると、自決しようとしたら何故かジンがやって来て今の状況にされ、すぐ去っていったらしい。なるほど、意味がわからん。

だが本人が『ジンにやられた』と言っていたのだ。それは疑いようはない。
しかし、NOCであると判明した人間を組織が生かしておく筈がない。
スコッチがNOCだという報せが幹部であるジンに行っていなかった、なんてことも有り得ない。
総合して考えると、ジンは『NOCのスコッチ』を意図的に殺さなかったことになってしまう。
それはつまり、そう言うことなのだろう?

「…ゼロ、俺たちはジンに対する認識を改める必要がありそうだな?」
「……あぁ、お前は一旦捜査からは離脱しろ。代わりに調べてほしいことがある」


二度も助けられたんだ

絶対、何がなんでもあの男を生かしてみせる

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