その他

□騙して殺さないでもない
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【ある戦場にて】

やぁ
僕は何処にでもいそうな普通の派遣戦士必爺、本名辻家那前。ちなみにこの戦士っていうのは比喩ではない。
え、どういうことだって?
なんてことはないさ
僕の家だって表向きはただの旧家だし
意外とそういう家庭は多い
ただ僕の家が、12年に一度あるって言う大戦の選手を出さなきゃいけない家系だったってだけ
今年開催されるソレには、多分僕が出ることになるだろう。めんどくさ。

仕事だからね、戦士としていつも戦争には参加する。
参加するけれど、別に戦争が好きってわけではないんだよね。
そもそも、戦争そのものに意味ってあるのだろうか。
それに至るまでの理由や思想やわだかまりはいろいろあるのだろう。
それは理解できる。
だが、その解決手段が戦争でなければいけない理由はあるのだろうか。
何故争いの根源達が安全の確保された会議室司令室ともすれば豪華な自宅の寝室にいるのに、そいつの支配下にいるからというだけで、顔も知らぬそいつのために大勢の人が武器をとり同じ様な状況の「敵」を倒し倒されなければいけないのか。
哀れな兵士たちに混じって、彼らと同じ様なことをしながらも、僕は未だにその理由がわからない。
ただ僕が思い付かないだけで、こんな非効率で非生産的な方法よりも、もっと良い解決方法だって有るかもしれないのに。
上に立つ人間なら、いくらか思い付けそうなものなのに。
いやまぁ、僕ら戦士は戦争で稼がせてもらってるわけだから、戦争が無くなったらそれはそれで失業しちゃうわけだけど。

今回僕が雇われた組織は随分と余裕があったようで、現地に入った1週間後にはこちら側による圧倒的な蹂躙というかたちで紛争を収束へと向かわせている。
僕の役割は序盤で終わっていたので、今は味方が進軍した跡地をぶらついていた。
派手な爆発物を使ったのだろうか、まわりを見ると元々ビル街だったのだろうそこにはそのおもかげは無く、地平線が見える程に建物は破壊し尽くされていた。
もちろんここはつい2日前まで最前線だった戦争の跡地なのだが、僕のメンタルのためにこれ以上の場景の説明は省かせてもらう。

ぶらついていると、瓦礫の中から人の声が聞こえた。
一瞬ホラーかと思った。

「……そこか?」

まぁそんなことはなく
見れば瓦礫と瓦礫の微妙な隙間で、まだ生存している人が居たみたいだ。雰囲気からしてただの市民だろう。話を聞く限り、逃げ遅れて瓦礫に隠れたは良いが、降ってきた他の瓦礫が退路を塞いでしまったらしい。瓦礫のことはあわれだが、生き残れただけでも儲けものだろう。

敵方とはいえ市民なのだから助けてやりたいのは無論なんだが、その瓦礫がどう見ても人ひとりでどうにかできる大きさじゃない。2、3平方mはあるガッツリ鉄筋コンクリートだ。クレーン車とか使わないとだめなやつだろ。
応援呼ばないとなぁ


『君、何してるの?』

ビックリした。
突然第三者の声が耳に入ってきた。
声のしたほうを見ると、なんか物凄くデカイリュックサックを背負ったアジア系の女の人がこちらを見ていた。というかさっきのばりばりの日本語だった。
声をかけられるまで、全く気配を感じなかった。なんだこの人。

『あ、警戒しないで、私は君になにもしない。ほら、武器も持ってないでしょ?』

ひょいと両の手のひらをこちらに見せて微笑んでいる彼女に、敵意はないが隙もない。
僕が言えた義理ではないが、防具らしい物が全く見られないそれはこの“戦場”においての服装としてはあまりにも似つかわしくない。
しかし、強いがゆえにかえって防具が邪魔だという戦士もいないこともないのだ。例えば闘牛士みたいな服装をして戦っている皆殺しの天才との呼び声高い彼なんか。
よくよく観察すれば、ぴっちりとした黒色のストッキングに包まれた脚は細くはないが太すぎず、言ってしまえばとても闘いやすそうな脚だ。中々足場の状態が悪いところで、あんな重そうなもの背負ってるのに背筋がスッとして体幹も整っている。アマチュアの僕から見ても、彼女が防具や武器を持たなくともある程度強いことは明らかだ。素手で闘ったら勝てないかもしれない。

しかし、彼女には敵意か全く無い。
負の感情がみえない。
不思議な人だ

「……この瓦礫の下に市民がいる。が、見ての通り瓦礫が動かせなくて困ってる。…あなたが嫌じゃなかったら、瓦礫を退かすための応援を呼んでほしい…みたいな」

僕の話を聞き、覗いた瓦礫の隙間から見える人間に気づいた彼女は、続いて瓦礫を見つめ、何やら考え事を始めたようだった。しかしそれも数秒ほどのことで、彼女のなかで何かがまとまったらしく、うんうんとひとり頷いてからまたこちらを見た。
何か考えがある人の眼だった。

『このくらいなら、私、なんとかできるわ。ちょっと場所代わってもらっていいかな?』

「…は?」

ちょっと何を言っているのかわからなかった。
もしかしてその眼鏡、ピント合ってないんじゃないか…?

『大丈夫よ、ちょっと見てて』

「いやいや、いったいなにする気なん……」
『ふん!』

彼女はコンクリートに手をかけると、倒れた襖でも退かすようにコンクリートを持ち上げた。

眼を疑った。
どんどん道を広げていく彼女に、疲労の色は微塵もない。

『あれ、つっかえてる』

最後に彼女は、コンクリート同士のつかえになっていた直径2センチの鉄筋を螺切った。

「う、うそだろ…」

もう一度言う、螺切った。鉄筋を。


『自己紹介がまだだったね。私は砂粒。近くに同じような人たちがいるかもしれないわ、手分けしてさがしましょう。あ、君の名前って聞いて良いかな?』
「……必爺」

僕のなかでの彼女の印象は、心優しきゴリラになった。

そして同時に、彼女にそのことを何と無く言ってはならないのだと思った。
女の人は意外とそういうの気にするのだ。僕は知っている。
言ったその日に僕は彼女の拳をもってして砂にされる、そう思った。

「…世界には、色んな人がいるんだなぁ……」

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