その他

□仔猫のはずとアズカバンの囚人
1ページ/6ページ

気がつけば僕は広い広い原っぱのなか、たった一人で佇んでいた。

耳を澄ませても、目を凝らしても、まわりに仲間の気配はなく、食料と呼べるものも見つからない。
何故か辺りの草を食べる気にはなれなかった。
日が暮れる前、偶然通りかかった、ペットショップを営むマダムに拾ってもらわなければ、僕は確実に、翌朝には息絶えていただろう。
おやかわいそうに、と抱き上げてくれたマダムの懐のあたたかさは、一人きりだった僕を安心させるには十分過ぎた。

一人?

おかしい

僕は猫なのだから、一匹、が正しい。

はて、何故僕は“猫の単位は匹だと知っている”のだろう。

まぁ、どうでもいいか。


マダムのお店に置かせてもらうことになった僕はまわりの猫たちに挨拶をしてまわった。
僕が新入りだからか、はたまたマダムの片手に納まるほどの弱々しいチビだからか、ほとんどの猫から無視か威嚇しかされなかった。
傷ついた。

『おれはクルックシャンクス。お前の名前は何と言うんだ?』
「僕はマダムに那前と名付けられました。よろしくお願いしますクルックシャンクス」

他の猫にエサを奪われ落ち込んでいた僕に自分の分を分け与えてくれたこのオス猫だけは、新入りの僕にやさしくしてくれるらしい。




写真のなかのものたちが忙しなく動く新聞を読みながら店番をしていた店主は、フワフワと茶の長髪を揺らしながら来店した少女に気付いて新聞をたたむ。

痩せこけた男が押さえつけられながら吠える写真を1面にした新聞の隅に、もうひとつ細々とした記事が載っていた。


――――――『闇祓い行方不明 ブラック脱獄に関連か』昨日未明、闇祓いサヴード・イレニアスキーが死喰い人2名と遭遇。連絡を受け闇祓い5名が駆けつけたが、現場にいたのは戦闘不能となった死喰い人2名のみ。イレニアスキー氏本人は杖を残し行方知れずであったとのこと。死喰い人2名の直前呪文が変身呪文と忘却呪文であったことから、イレニアスキー氏に何らかの問題が発生したとして、今後情報を募りながら彼の捜索を進める方針となった。なお、魔法省はこの事件と近日アズカバンより脱獄したシリウス・ブラックとの関連性を危惧しており、近隣住民へ警戒を呼び掛けている。――――――

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ