その他

□兄貴の兄貴とブラック企業
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俺はブラック企業に勤めている。
業務内容も社員の腹も社員の見た目もブラックな企業だ。
俺はその企業でもわりと古株らしい。
そうだな、カインとでも呼んでくれ。
まぁ社内のニックネームみたいなもんだ。

突然だが俺には弟が一人いる。
俺とは似ても似つかないくらいハンサムでノッポな弟だ。
俺とちがって綺麗な銀色の髪を伸ばして、俺とちがってココのボスに重要な役職を任されている、俺とはちがって大変出来た弟だ。

俺たちの幼少期は幸せな家庭だとは言えなくて、14で俺を身籠り進学を諦めてパートと枕営業で俺を育て父親を支えた母親は、弟を産んだ頃にはもう身も心もボロボロだったのだろう、弟が3つになる前日に過労で死んだ。
職に就こうとしなかった父親は母親の稼いだ金で酒とギャンブルに明け暮れ、膨れ上がった借金と妻の死による苛立ちを俺たちにぶつけ、弟が10になった1週間後行方知れずになった。
生きてるのか死んでるのかはどうでも良い。

母親を知らず、ろくでもない父親に5年以上も暴力を振るわれ、世間からも冷たい目で見られた弟は結果的にスレた。
ものすごくスレた。
一匹狼まっしぐらだ。
そんで、父親からの暴力を庇い、不器用ながら何とか護り育てた俺にものすごくなついた。
ブラコン待ったなしだった。

就職できる年齢になって、小さなアパートで何とかふたり生きていけるほどのお給料が貰える真っ当な企業で俺がえっこら働いてしばらく。
美しく逞しく育った自慢の弟が俺に内緒で細々と傷をつくっていることに気づいた。
無視していれば何も変わらなかったかも知れないが、身に付いた母性とお節介がそれを許さず、俺はある日の夜、とうとう聞いてしまったんだ。

「なぁ、辞めろとは言わねぇ。ただお前が何してんのか、兄ちゃんに話してくんねぇか」

するとどうだ、今まで見たことないような複雑な表情であいつは尋ねてきた。

『知っても、俺を捨てないか。離れないか。ずっと』






それに頷いてしまった結果がこれだ。
話の翌日には元の職場には退職手続きがなされ、アパートの荷物は企業の本社より大きくてキラキラしたマンションの高層階に移された。

俺に与えられたのは社内のニックネームと多少の権限。
多分弟の口添えが有ったからだろう、いつの間にこの子はそんな昇進したんだ。
言い渡された職務内容はいたって簡単、組織内の情報処理だ。
大きな企業らしく、膨大な情報の処理と整理を任された俺は、今までの何倍も楽な業務で今までの何倍も高い給料を貰えるようになった。
ただ、扱う情報の内容がちょっとばかしアレなので、多分ココは終身雇用なんだろう。

俺をココにつれてきた弟はジンというニックネームともう俺と住む必要無くね?というくらいのお給料を貰っている。
ウォッカくんという人と特に仲が良くて、あと数人くらい仲の良い人はいるがやっぱり一匹狼感は健在だ。

そんな弟のお仕事は、商談と取引と終身雇用のお手伝い。
俺とちがって忙しそうだ。
弟は天職とか言ってやがるが、俺には理解出来ない。

『ここに居やがったか。何してる、行くぞ兄貴』
「それ、ウォッカくんと被るから、普通にカインで良いだろうが」
『てめぇは俺の兄貴だろうが。兄貴を兄貴と言って何がわりぃ』
「突然のデレ」

俺はブラック企業に勤めている。
でも、弟と一緒に居られるなら、悪くない。


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