その他

□トリガーハッピーと
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俺は銃器が好きだ。


きらりと黒くひかる鉄の美しさが好きだ。


引き金を引くときの絶妙な重みが好きだ。


引いた直後の反動が、銃器自身が撃つことを悦んでるみたいで好きだ。


撃ったあとの風に混じるかすかな焦げ臭さが好きだ。


それから

それから




スコープのなかに咲く紅い花が




大好き。



大好きなんだ。



「ちょっと、聞いてるのかライ」


『あぁ、君がどれほどこの仕事が好きなのかは十分聞いた。しかしそれくらいで止めておけ。誰が聴いているかわかったものではない。』


グラスをカラリと鳴らしながら俺をたしなめた彼は、最近コードネームを貰った狙撃手だった。


初めて仕事で一緒になった時、酒の趣味が合うとわかってから度々ふたりで飲むようになった。

まぁ、俺が誘ってるだけで彼から誘われたことがないことから、好かれてはいないだろうなとは思ってる。

なら断れば良いのに、いちいち付き合ってくれるあたり、律儀な奴なんだなと思う。見かけによらず。



生まれてこの方、真っ暗闇のなかでしか生きてこなかった俺には世間一般の酒の席における話の種なんてないから、話せることと言えば最近の仕事のあれこれしかない。

キャンティなら嬉々として話に参加してくれるし、カルバトスは他の話題も持ってきてくれる。専らベルモットのことだけど。

スコッチは頼めば弾き語りをしてくれたから飲んでて楽しかった。何故か誘ってないのにバーボンが付いてきたが。

コルンは元々寡黙な奴だけどちゃんと頷いてくれるしたまに返してくれるからまだいい。


だがライはなんだか、誘った時点で凄く乗り気じゃ無さそう。

「聞いてるか?」『あぁ。』で終わってしまうこともざらで、こっちから話を振らないかぎりずっとグラスに映る自分とにらめっこしてるような男だ。

でもちゃんと酒は付き合ってくれるから不思議な奴。

俺はふと視界に入る、琥珀に映える彼の翡翠の目が、宝石のようで見ていて飽きなかった。
だからつい誘ってしまうのかもしれない。

俺はいつか、そんな不思議な男のほうから誘われて飲みに行くことを夢見ているが、多分それは今後も叶うことは無さそうだ。


「700ヤード?バケモンかよお前」

『案外難しくない。君くらいならやろうと思えば出来そうな気がするが』

「え、マジで?え、やってみようかな…」


たまに喋ったかと思えば、いちいち人をときめかせるんだから恐ろしい奴だ。
なんだよ俺ならって。

そうやってさらっと喜ばせることを言えるあたり、多分こいつはモテるだろう。
だって俺はもうこんなにやる気になってるんだ。気のある奴なら舞い上がるだろう。


「待ってろ!すぐに800超えてやるから!」

『だから誰が聴いているかわかったものではないと…』







あいつが実はNOCだったと知ったのはそれからしばらく経ってからだった。

まぁ俺は撃てればいいから奴が何者だろうが関係なかったが、せっかく頑張っていたのに自慢する奴が減ってちょっと残念だ。
いや、あれだけの名手だ。仕事でかち合うことも有るかも知れない。








「は、死んだ?」

『あァ、あれだけ煮え湯を飲まされたにしては、呆気ねぇざまだったぜ…』


殺ったのは、彼の手から逃れてきたキール。
肺と頭に1発ずつ。
最後には車ごと爆破。

なんだ、結局お前には俺の上達をお披露目できなかったな。
俺、700いったんだぜ?
そう言えば、撃った標的をずっと見つめた後に目をつむるとお前の色になるって気づいたんだ。
赤の補色は緑、なんてお前は知ってたよな。

あーあ、話したいこと色々あったのになぁ。

本当に、残念。





最近独り酒が増えた気がする。

ふとしたときに翡翠が光った気がして、何故か胸がツキンとした

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