探偵たちと!

□模試ですってよ
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そしてまた何度目かの秋が来た
え、季節の流れが早すぎるって?
いいんだよ細けぇこたぁ。
いちいち気にしてらんねぇよそんなこと。


―――――――――――――――

段々寒くなってくる季節だ
つまり起きるのが辛くなってくる季節でもある。
くそねみ


『前々から言っていたように、8日は模試があるから、いつもと違って休んじゃだめよ』


『『はぁーい…』』


「…………え、マジで?」


休憩になってすぐ
俺はB組へ駆け込んだ
なぜ駆け込んだか?
非常事態がおこったからだ



『なによ那前知らなかったの?予定表にちゃんと書いてあったじゃない、模試の日程』
「いや、そうなんだけどな園子ちゃん、今までこんな時期に模試なんて無かったろ?」
『1年生の時はそんなにないけど、2年生からはちょくちょくあるみたい』
「いやそうなんだけどな蘭ちゃん、そう言うことじゃなくて…」


なんだなんだ
聞いてないぞそんなこと
今まで高2の11月8日なんて何回も有ったが、模試なんて1度もなかったじゃねぇか。
どういうことだ、その日なにかあるのか?
わざわざ模試なんてするくらいだから、学校でなにか起きるのか?
立てこもり?
それとも爆弾魔?
まさかまた校内で殺人事件?

学校関係で何かあっても俺は良心の呵責のせいで風邪でも引かねぇ限り安易に模試を休めないじゃねえか
蘭ちゃんがいるから死にはしないだろうが、絶対めんどくさいことになる気しかしねぇ
まったく、勘弁してくれよ…




―――――――――――――――




そして現在西暦ゴニョゴニョ年11月8日午前8時半

そう、模試である

だが俺はまだベッドのなかにいた

寝坊じゃねぇ


「ゥゲッホ…、ゴホッ……勘弁してくれよ…ゴホッ」
『38度…高いわ、お休みの電話は私がしておくわね。でもどうしましょう、お医者さん今日は10時からなのよ…11時の飛行機は諦めようかしら』
「いや仕事、ゲホッ…優先させろよ、コホッ、クリニック前に送ってくれれば、帰りは自分で歩くから、ゲホッ」
『っ!…那前…あなたって子は、グズッ…なんていい子なの…!いい子過ぎてお母さん心配…ウゥ…』


この世界では、事件に巻き込まれていく方向でのフラグ回収率は良いと思っていた。
実際いいんだがな。
でもまさか、ここで普通にフラグ回収が起きるとは思わなかった。
おかしいな、この時期に風邪引いたことなんて前も含めて今まで1回もなかったのに。
あれかな、俺は今回原作に弾かれたのかな。まぁ全然ウェルカムだけど。
事件に巻き込まれなくて嬉しいような、そうなると学校にいる蘭ちゃんたちが心配になってきたような。
大丈夫か、あいつらメインキャラだし。
早々には死なねぇよな、多分。
うん、きっと大丈夫
事件が起こらないという可能性もあるにはあるが、それをこの世界で頼るのは賢くない。
この世界で、事件は起きないかもしれない、と言うと事件が起きるし、起きるなこれは、と言うと事件が起きる。
つまり事件は起きるしかないってことだ。だから期待するだけムダってことになる。
それより今は、頭が痛い。
今の俺にできるのは、彼女たちの無事を祈ることだけだと思っている。
あ、節々も痛い。

あれ、俺熱で死なねぇよな?
大丈夫だよな?

な?



―――――――――――――



『今日と明日は安静に。お大事にね』
「ありがとうございました」


俺は死ななかった。
よかった。

てなわけで、無事診察が終わりクリニックから徒歩の帰路についた俺である。
母さんにはタクシー拾えって言われたけど、しばらく点滴をしてもらったら歩けるくらいに楽になったからまぁいいかなって。
あ、行ったのは新出医院じゃないぞ?
ここは5才くらいから贔屓にしていて、ナイスミドルな遠藤さんがやっているクリニックだ。
メチャクチャ優しい先生である。飴とかくれる。
先生が言うにはただの風邪で、食って薬を飲んで温かくして寝てれば治るらしい。
だいたいそうだと思うが。


「……なんかイベントか?」

帰りに通りかかった赤い塔では、休日であることを考慮しても、いつもよりもずっと人が多い気がした。
遠目から見れば、人の波の向こうに大きくて変な生き物を見つける。
恐らく今日は、ここの新しいイメージキャラクターのお披露目の日らしかった。


「…大変だな中の人……あ、」

耳がなにか拾った。
泣き声だ。
小さいが、確かに泣き声が聞こえた。
こう、放っておいたら巻き舌とともに黄色いリボンで縛り上げられるような気分になる感じの泣き声だ。

どこだどこだと探してみると、すぐ近くで独り立っている幼い女の子がいる。
あのこだな。
クマちゃんのぬいぐるみががぎゅうぎゅうに抱き締められて落ちそうだ。



「…なぁ、どうしたんた、なんで泣いてんだ?」
『ま、ママがどこにもいないの……』


しゃがんで話しかければ怖がられずに答えてもらえた。
うれしい
なるほどな、どうやらメロンパンナちゃん(仮)は母親とはぐれてしまったらしい。
なんだか親近感湧いちゃう。
迷子で泣くとは、年相応でなんと可愛らしいことか。
あいつらとは大違い。

「あー迷子…お兄ちゃんも探してあげるから、泣くのはやめよう、な?」
『い、いいの…?』
「全然いい、むしろその声で泣かれる方がつらいって言うか…」
『…あ、ありがとう、お兄ちゃん』

きらきらとまだ少し赤い目で俺を見つめはじめたメロンパンナちゃん(仮)
珍しい
どうやら俺はこの子に懐かれたらしい。
やだうれしい

「じゃあメロ…嬢ちゃん、」
『わたし、朱美!』
「あけみちゃん、クマさん離さないようにね」
『この子はジャムちゃんだよ!』
「…そう、ジャムちゃんか……そうか…ジャム…うん」

俺、端から見て不審者に見えねえかな。

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