探偵たちと!

□傘の行方はどこじゃろな
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いくらこの世界が犯罪事故のテーマパークとはいえ、それらが起こっているのは基本アイツの身のまわりばかりなので、たまに火の粉が飛んでくる以外の日常は概ね平和である。

てなわけで、月日はどんどん流れていく。
まぁ年齢は変わんねぇけど。

そんなある初夏の日、俺は保健室で学園祭以降どんどん仲良し度が増している新出先生と世間話をしていた。

『僕も生徒からもらったよ、“ふたりの騎士”の写真。やっぱりかっこいいね那前くん』
「ブッ!?…な、何ですかそれ!」

もちろん保健室を訪れたのは、熱中症防止に小雨のなか行われた体育で野球をしていたときに、我等が学級委員にしてバスケットボール部部長の清水から繰り出された、力強いフルスイングと雨で濡れた手によって勢いよくすっぽ抜けたバットが、後ろスペースで呑気にアップしていた俺の後頭部に直撃し、大事をとって患部を冷やす氷嚢をもらって安静にするためであり、世間話はそのついでだ。
暇潰しともいう。
だって冷やしてる間せっかく同じ空間にいるのに、お互いずっと無言とか寂しいじゃん。


「え!じゃ、じゃああのバスジャック、先生も巻き込まれてたんですか?」
『ジョディ先生もね。その時は本当にびっくりしたな…あ、あとあの子も居たよ。蘭さんのところの…』
「…コナンくんもですか?」
『そう、その子とお友だちもね』
「はぁ…災難でしたね」

この世界の住人は、まるで明日の天気の話でもするように事件の話をする嫌いがある。
話される側は心の準備ができないから、もっとそれっぽくはなしてほしい。
案の定、あぁそう言えばね、で始まった新出先生の話に俺はただただ吃驚するしかなかった。

恐らく赤井さんが乗っていただろうバスには、他にもけっこう色んなキャラが乗っていたみたいだ。
これじゃあバスジャックは起こるべくして起こったと言っても過言じゃないだろう。
本当に乗らなくてよかった。
それにしても、とうとう人畜無害の体現者である新出先生までをも事件に巻き込みやがるとは、コナンくんの災難吸引力は止まるところを知らないらしい。
実に迷惑極まりないぜ。


『あ、外。本降りになってきたみたいだね』
「…うわ、ほんとだ」

彼の目線を追って窓に顔を向ければ、いつの間にか空の灰色は濃く目視できるほどに雨粒も大きくなっていた。
おかしいな、今日はずっと小雨だって朝の天気予報で言ってたはずなのに。
よく見ればグラウンドの所々に水が貯まってきている。
これだけ降ってれば清水たちも室内に戻ってるだろう。

「うわぁ…けっこう降ってますね。下校までに止むかな…。先生、今日傘持ってきました?」
『一応、折りたたみ傘はいつも持ってるよ。濡れるの嫌だからね』
「準備いいですね」

突然の雨でもクールに折りたたみ傘をサッと取り出す男性は女子からのポイントが高いらしい。
俺は持ってない。
何気なくクリアする新出先生は、やっぱりできる男って感じだ。
使った後もきれいに畳み直してそう。
鞄からちらっと見せてくれた折りたたみ傘は、型は古いものの綺麗にしていて変な畳み癖なんかはひとつもなかった。
男の傘って感じ。
かっこいいな

「あれ、その折りたたみ」
『え、那前くんも同じ物をもっているのかい?』
「いや、持ってはないッス…けど、なんか見覚えが…有るようで無いような、うーん?」
『まぁ、似たようなデザインのものはたくさん有るからね』

フォローしてくれるのは嬉しいが、やっぱり思い出せないのはなんだか悔しいな。
いやー…どこで見たっけ。

『でも残念だな、君とお揃いだって思ってちょっとだけ喜んじゃったよ』

うわ
そんなあざといことがさらっと言えるとか
新出智明、まったく侮れん男め。
おかげでどこまで思い出したか全部吹っ飛んだわ。


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