探偵たちと!
□開催する
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『ああ…全知全能の神ゼウスよ!!どうして貴方は私にこんな仕打ちをなさるのです!?』
舞台の上から登場する予定の俺は、みんなを見下ろしながらやわやわと出番を待っていた。
ちなみに「やわやわ」とは北陸の方言らしい
詳しくはWebで
にしても蘭ちゃん、ドレス似合ってるなぁ。
『我ら帝国にとっちゃ、公国と王国には今までどおりいがみ合ってもらった方が都合がいいってわけよ…』
『きゃああああ!』
あ、護衛が斬られた
そろそろ出番かな
―――――――――――
『おら、来い!』
『いやぁ!』
公国側の衛兵はすべてたった3人の帝国兵に斬り捨てられ、守護を喪ったハート姫が僅かな抵抗むなしく奴らに連れ去られる、
まさにその時
彼らの頭上より、ひらりひらりと舞い落ちるは
『カ、カラスの羽根…』
見上げた兵は、その黒の正体を知ることになる
『ま、まさか!?』
しかしそれを知ったところで、応戦には間に合わない
『ぐわぁあ!』
くるりとマントを翻しながら舞い降りた仮面が振るった剣によって、兵は背に袈裟斬りをくらい膝から崩れ落ちる
仲間の叫びを聞いたふたりは、やっと仮面の正体に気づいた
『『こ、黒衣の騎士!?』』
噂には聞いていた
どこからともなく現れて、圧倒的な強さで公国の姫を護る、黒を纏った仮面の騎士
まさか今ここで現れるとは
敵わないとは知りつつも、帝国側としてはおいそれと退くわけにはいかなかった
『っ…くそ!ヤツは一人だ!やっちまえ!』
『お、おう!』
数による勝機を頼りに、ふたり一斉に斬りかかる
騎士は1人目を斬りつけた体勢を素早く反らせることで兵の剣を避ける
勢いそのまま、片手のみで後方回転をして兵から距離をとる
『ひぃ!』
自分に騎士が顔を向けたことで怯んだ2人目を突きで確実に仕留める
『っ…くそぉお!』
独りになったことで冷静さが欠け、剣を大きく上に振りかぶった3人目を胴切り一閃で地に伏せる
ここまでたった数秒間の出来事である
これでは交戦というより、蹂躙と称すべき一時であった
騎士はすくりと直立し、ぶおんと大きく血振りをひとつ
そして舞台は、しばしの漆黒と静寂に支配される
――――――――――――
『ああ!一度ならず二度までも!』
蘭ちゃんのセリフを背に、役目を終えた俺は舞台袖で気密性の高い仮面を外す
うっはー緊張したー
実は殺陣って斬られる方の演技が上手いと何でもかっこよく見えるらしいぞ。
客席からすげえって聞こえてきたから、恐らくはちゃんとかっこよく見えたんだろう。
ありがとう兵役の人たち。
『も、もしや貴方はスペイド!?』
俺としては、交代がちゃんと出来て凄くほっとしたが、新出先生がハイタッチをしてくれなかったのがちょっと寂しい。
『もしあの日の約束をお忘れでなければ…』
真面目にやらなきゃいけないのはわかってたけれど、あれじゃあ片手上げたままの俺が能天気な奴みたいじゃん。
恥ずかしい。
劇が終わったらめっちゃハイタッチしてやろ…
そう決めて顔を上げた先にいたのは、
今俺が脳内でハイタッチ地獄を味わわせていた人物であり、
同時に今舞台袖に居るはずのない、
否、居てはいけない人物だった。
「な、なんで居るんだよ…新出先生」
思わずこぼれた声は、しかし客席からの悲鳴によって誰の耳にも入ることはなかった。