探偵たちと!

□見舞いに行く
1ページ/3ページ



「来ました」
『暇か』
「ひまじゃないです」
『高木も昨日来てったぜ』
「本当にお二人って仲良いですよね」
『おうとも、なんたって俺たちは“ワタルブラザーズ”だからな』

忘れている人もいるだろうが、なにげに俺と伊達さんの交流は続いていた。
え、伊達さんとは誰ぞや?
そんな人はこの物語の高一後編を読むといい。
あれ、俺誰に話しかけてんだ?まぁいいか。

『他のクラスの手伝いもしてんのかお前、すげぇな』
「でしょう、でしょう。2週間後なんですけど、伊達さん来ませんか。来週で退院できるんでしょう?」
『あ、わりぃ、その時もう北海道だわ』
「そ、そんな…」

交流といっても、ただ駄弁ってるだけなんだが。
そういえば、知ってたか?
伊達さんこのなりで実年齢28なんだってよ。
てっきり俺の中身と一緒ぐらいかと思ってた。
やっぱ人は見た目だけで判断しちゃいけないんだなぁ

伊達さんは事故の影響で当初は下半身の神経と筋肉の損傷があったが、伊達さんの熱心なリハビリと根性の成果か、今ではゆっくり歩くことならできるまでに回復している。
主治医でさえもこの回復力には驚いたらしい。
俺はめっちゃびっくりした。
伊達さん曰く『ナタリーに苦労かけてばっかりじゃ、カッコつかねぇだろうが』らしい。
愛のなせる業ってやつだ。
ケッ。
末永く幸せにおなり。

『落ち着いた頃に俺から妙地に手紙出すわ』
「手紙ですか。デジタルのご時世に手紙ですか」
『あぁ?愛が有っていいだろうが』

そう言って伊達さんはばつが悪そうに俺から目線をそらした。
その時俺は、伊達さんが時折、携帯電話を操作しながら『ここからどうすんだっけか?』とかグチグチ言っていたのを思い出した。
ちなみに携帯電話は折り畳み式である。
見た目だけで判断しちゃいけないとは言っても、全てってわけじゃないらしいな。
伊達さんは、見た目に似合ったバリバリのアナログ人間だった。


―――――――

「じゃ、また来ますから」
『おう、来い来い』


そこまで積もる話はなかったはずだが、病室を出る頃にはどっぷりと日が暮れていた。
やばい、課題終わってないわ。
父さんも母さんも家に居ないとは言え、早く帰らねぇとそろそろ電気がついてないことに気づいた近所のおばさんから突撃隣の晩ごはんという名の生存確認があるかもしれない。
たまに持ってきてくれる煮物の詰め合わせには感謝しているんだが、如何せんおばさんの話す時のテンションが高くてついていけない。
早く帰ろう、そうしよう。







「………蘭ちゃん?」

ロビーへと向かう俺の足を引き留めたのは、聞き慣れているはずの、しかしこの場では聞こえるはずのなかった幼馴染みの少女が発する声だった。

声のする方を向けば、視界にとらえたのは見なれた焦げ茶の長髪を揺らしながら走る幼馴染みと、そのあとを走る彼女の父親。

彼らの向かった方向からは、耳を澄ませば複数のこどもの声。

かすかにストレッチャーのタイヤが滑る音もする。

しばらくして聞こえてきた彼女の必死な声が紡ぐのは、まるで誰かの意識をどうにかしてこの世に留めようとする悲痛なそれである。

呼ばれた名も、聞き慣れている、しかしこの場では聞きたくない羅列だった。

そんなはずないとは思いつつ、俺はサッと踵を返し、迷いのない足どりでその声のする方へと向かうのだった。

見えてきたストレッチャーを囲む集団の会話から、帰宅できるのはもう少し後になるだろう予感がした。





次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ