探偵たちと!

□後編、サイドストーリー
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【to F from D】



――俺、警察辞めることにしたわ――


「………は?」


お前が見てるって前提で送るけどよ、という書き出しのメールが旧友から届いたのは、潜入先での微々たる情報を上に報告し“降谷零”としての仕事を片付けている合間の、ちょっとした休憩時だった。

どうせ返信はできないのだからと流し見に留めようとしていた三徹目の頭を一瞬で覚醒させたのは冒頭の一言で。

「は、どういう、え?」


別に、職業選択の自由は公務員にも適応される。
なりたいと思ったならどの職でも就けるよう努力すればいいし、辞めたいならそうすればいい。



違う、俺が言いたいのはそういうことじゃない。

俺は、他の人間が同じ内容のことを言っても、大して驚きはしない。

そうか、今までお疲れ様、なんて言葉も考えなくともするりと口から出る。

だがこいつは、今メールを送ってきた男の、この仕事に対する情熱は、並大抵ではなかったはず。

警察学校時代、『俺が警察辞めるときは定年か二階級特進だな』なんてブラック過ぎる冗談も言っていたが、実際殺しても死なないような、意地でも辞めないような、そんな奴だった、はず。




――うっかり居眠り運転のトラックに轢かれそうになった。高校生に巴投げをして死にはしなかったが、さすがに避けきれず脚の神経が逝っちまって、現場復帰は無理らしい。事務を勧められたが、ちまちま手だけ動かして体が疼くくらいならスッパリ辞めたほうがいいと思った。妻(予定な)と北海道に行って暮らすことにした。お前なら大丈夫だと思うが、達者でやれよ。――――


所々理解に苦しむが、要約するとこんな感じだろう。


然り気無くリア充報告するなとか、

どういう経緯か知らないが高校生を巴投げするんじゃないとか、

そもそも注意を怠るなとか

いろいろ叫びたいことは山ほどあったが


「生きてるなら、それでいい…」


そんな些細なことが危ぶまれるのが俺たちの仕事で、


俺たちは実際に、そのために同志を失ってきたわけで

ここ数年、そういうことに過敏になっているのは否めない。






「………なんだよ、うっかりって…」


だから尚更なんかこう、うっかり、なんて言いながら死にかける奴に言い様のないモヤモヤがおこるんだ。


自分と同期生だったことが拍車をかけて、もし俺が潜入捜査なんかしていなければ、迷うことなく3発ほど殴りに行くくらいのモヤモヤ感だ。





「よし、見に行こう。なに、あっちに見つからなければ大丈夫。刑事が巻き込まれたんだ、わざわざ調べさせなくても現場は割れるだろう。最寄りの警察病院に都合をつけさせれば……」






ついさっき自分が潜入捜査中であると言ったにもかかわらず、彼はすでに警察病院に行く気満々である。

三徹目に突入し大量アドレナリンのせいで謎の自信と行動力を身につけた降谷零は、かわりに正常な判断力を捨て去りつつあった。
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