探偵たちと!

□プロローグ
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【俺は男子高校生】


普通に寝て起きたと思ったら体が縮んでいて慈しむような顔の母に見つめられていたという体験をしたことはあるか?
ないか
俺はある。

待ってくれ。
精神異常なわけじゃないんだ。





俺は高校生 妙地 那前。
幼なじみと言えるやつは全員違う高校に行ったし、一緒に遊園地にいくほど親しい友人はいない。
ただちょっと若白髪が気になって、運動がわりと好きな普通の男子高校生だったはず。

そう、だったはず……

「(……どういうことだこれは)」

どこだここ
身を起こして周囲を見ると、俺の家なのはわかる。
だが俺が昼寝していたのは自分の部屋のベッドだったはずで、リビングなどではない。
それにすでに高校にあがって家には不要になった幼児用玩具に囲まれて眠るような趣味は俺にはない。
どこだここ

『あら、起きたの?おやつできてるわよ』

あれは誰だ。
いや、かあさんだ。
だがあんなに若々しかったか?
最近目尻の小皺が気になるのよ〜とかいってなかったか?
今のかあさんお肌ピッチピチじゃないか?
しかも心なしか大きい

『?どうしたの那前、まだおねむなの?』

ちょっとまて。
おねむってなんだよかあさん
確かにかあさんは親バカの部類に入るタイプの人間だ。
小学校入学から今まで授業参観は全部とうさんと揃って来てたし、俺の壊滅的な美術の作品を見て『こんな素晴らしい木の彫刻は見たことないわ!この子はミケランジェロの生まれ変わりかも知れない』とか言うくらいには俺のこと大好きだ。ちなみに俺は手の彫刻をしたつもりだった。
だがおねむはないだろう。
まさか他所でもそんなんじゃないだろうな。

「なぁ、かあさ……!?」
『なーかーさ?』

は!?俺声高くね!?
いや、声変わりする前はこんな感じだったと思うけど!
あ?ん?
……'声変わりする前'?


幼児用玩具に、若々しい母

………

「きょうは、なんねんなんがつなんにち?」

あれ、なんか凄い舌ったらず

『あら、もうカレンダー覚えられたの?凄いわねぇ那前。今日はあなたのお誕生日よ、3才おめでとう』

でもケーキはお父さんが帰ってきてからね。と、何でもないように爆弾を投下したかあさんの笑顔は、やっぱり若々しかった。

───────

とうさんが帰ってくるまえに姿見で自分を見てみる。
予想通り縮んだ俺がいた。
おぉ、髪が真っ黒だ。

「(どこの名探偵だ……)」
『ふふ、3才になってもいきなりおっきくはなれないわよ?』

あぁ…いきなりちっちゃくはなれたぜかあさん。

とうさんが帰ってくると俺の3才の誕生会がはじまった。
『お誕生日おめでとう那前』
『もう那前も3才か!こどもの成長は早いな母さん!』
「ありがと、とうさん、かあさん」

いや俺、縮んだんですけど。

せっかくだしアルバムを見ようということになった。まぁ親バカあるあるだな。
にしても3才にしてアルバムが6冊ってどうなんだ。
いや、愛されてるなあとは思う。
だが、やっぱり多いだろ6冊って。

アルバムを見返していると何か違和感がある。
確かにそこに写っているのは2才の俺であるが、何かが違うと感じる。
何が違うかはわからないが、そいつは俺であって俺ではないみたいな奇妙なかんじだ。

『もーこの頃の那前もほんと可愛いわね!』
『なにを当たり前なことを言ってるんだ母さん。こいつが可愛くなかったことなんてあるわけないだろ?』
『それもそうね。ごめんなさいあなた』
『まあそんなおっちょこちょいなところも大好きだけどな』
『……もう、あなたったら』

よそでやってくれないか

やっぱりケーキは何歳でも美味しい。
だが誕生日プレゼントに戦隊系のぬいぐるみを渡されたときはリアクションに困った。
見たことあるようなないような顔のヒーローを微妙な表情で見つめて選択を誤ったかと両親を慌てさせたことは反省するが、中身17歳の男にぬいぐるみではしゃげと言っても無理な話である。
肌触りはよかった。


────────


翌日は日曜日だった。
月曜だったら間違いなく幼稚園にいって神経すり減らしていた。1日くらいの猶予はほしい。

『あら!那前早起きね!ふふ、もう3才のお兄ちゃんだものね』
『3才だもんなぁ』

3才にどんだけ夢をみてるんだふたりとも。3才ってあれだぞ、やっと自我の芽生えができるだけだぞ

「うん…かあさん、おしごと?」
『ええ、6時くらいに帰れるから、ご飯はそれからでいいかしら?』
「うん、いいぜ…よ、いってらっしゃい。」
『ふふ、いい子ね。いってきます。』
『あ、母さん!帰ってくる途中の本屋で工藤優作の新刊買ってきてくれないかい?』
『もちろんそのつもりよ、知らないわけないでしょう?』
『さすが母さん!愛してるよ!いってらっしゃい!』
『私もよあなた。いってきます。』

だからよそでやれと…

それより聞き捨てならないワードが出てきた。

「ね、とうさん」
『ん?どうした?あ、朝ごはんまだだったな!よし、食べるか!』
「あ、うん…ってそうじゃなくて、あぁ…えっと…工藤優作ってコナンの?」
『!!もうそんな難しい本のこと知ってるのか!やっぱりおまえは天才か!…でも惜しいな、工藤優作の本はコナンじゃなくてナイトバロン、コナンはシャーロック・ホームズの作者なんだ』

うん、それは知ってる

うん?

え?






この世界に工藤優作が実在した。
しかもとうさんと彼は知り合いらしい。まじかよ。


彼には元女優の美しい妻と、俺と同い年の息子がいる。


散歩途中の電信柱には『米花町』の文字。

これであの違和感の正体がわかった。
つまり俺は何故か違う世界の住人になってしまったらしい。
しかもそこは平和な日本にあるまじき殺人強盗事故爆破のテーマパーク。

これはあれだ

うん

俺そのうち死ぬかもしれない

───────────

何の因果かは知らないが、俺はこの世界で生まれなおしたらしい。
らしい、というのは、俺には死んだ記憶がない。
夢かとも思ったが、つねった頬がまだ痛いからここは現実だと言うことになる。
だがもし俺が転生したとすれば、あのとき自分の部屋で昼寝をした高校生の“俺”はすでに死んでいるということになる。



え、マジで?
俺死んだのか?
眠るように旅立つってやつか。
実感ねぇな……

あ、自我の芽生えって怪しいぞ。
もともと転生してはいたが自我の芽生えとともにそれを自覚したとか……?
んんん難しい。
考えるのやーめた。


まぁとりあえず俺はこの世界の住人として生まれ変わった訳だが、ここで重大な問題が発生した。
ヒントとして、俺は前世では根っからのジャンプ派であった。
ついでに言えばこの世界じゃないほうの死神が出てくる作品の七緒ちゃんが好きだった。
おっと、何の話だっけ
そう、つまり俺は名探偵コナンについてそこまで詳しくない。
アニメは時間が合えば夕食時に見る程度で、劇場版は金曜日に入るやつをなんとなく見たっきりだ。
毎回ある映画のオープニングのおかげで大まかな流れは理解しているが、ここは毎週捜査1課が出動する世界だ。
甘く見てはいけない。
下手すれば俺が死んでしまう。
今わかっているのは、今が“名探偵コナン”の1話以前の時間軸であるということだけだ。
名探偵は今正真正銘の3才であるのだ。

というわけで俺は“名探偵コナンの世界”に関わらないことを決意した。
そもそも前世ではコナンに妙地那前というキャラクターが登場したという覚えはない。
もしあったら知り合いがなんか言ってくる。
つまり無理して関わろうとしなくてもいいというわけだ。
原作介入とか恐ろしすぎる。
俺は死にたくない。

なんか主人公と親同士が知り合いとか言ってたが、そんな関係は些細なもんだ。
とにかく俺は関わらない。

この世界で平穏無事に生きてみせる。



その時の俺は失念していた。



その言葉がまさにフラグであることに。

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