トリガーハッピーと銀の弾丸

□はち
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「あーダルい…帰りたい……」
『シャキッとしてください、やる気あるんですか貴方』
「…ないかも」


いくら俺たちの組織が国際的な犯罪シンジケートとは言え、そう毎日毎日ドンパチ出来るわけじゃねえ。合衆国のスラムや発展途上の暗黒街ならまだ良いが、銃刀法の厳しい地域でのチャカの使用は中々にリスクが高い。だが撃たなきゃならねぇ要人ほどそんな場所にいやがるから、お巡りさんにバレないようにする準備が面倒くさいのなんの。
だから組織の狙撃手が狙撃手として活躍できる場は、実はそんなに多くない。
表社会に立場のあるやつは組織の仕事がない時そっちに行けば良いが、俺みたいな組織以外で社会的地位のない奴は暇でヒマで仕方がねぇ。とりあえず、でもらった偽造の戸籍も最近全く使ってない。名前呼ばれても一瞬気付けなさそう。

狙撃手としての仕事が全くないときは、しょうがないからいろんな奴らの仕事にヘルプとして同行し暇を潰している。
今日はバーボンたちのお手伝いだ。
まぁやる気があるわけではないんだけど。


今日やることはそんなに難しいことじゃないらしい。
俺たちがパーティーでの交流というかコネ作りをしている間に、同じ建物の何処かで組織と主催者グループとの取引が行われる。
俺たちはパーティーをこなしつつ、不測の事態に備えていろんな場所や人物に目をピカピカ光らせてれば良いのだとか。


『アラ、安室さん来てくだすったのね?嬉しいわぁ!』

会場を二人でブラブラしていたら、バーボンと知り合いらしい女が寄ってきた。
随分着飾ってんな。香水臭そう。

『ハンター、あれが今日の僕らの最初の仕事です。言葉遣いには注意してください』

バーボンに耳打ちされて、さっきまでその女と連れ立っていた男の顔を確認する。
今回の取引相手だった。
特徴が無さすぎて一瞬気づかなかったぜ。

今回の取引相手は、今俺たちが参加してるパーティーの主催者であり、会場となっているホテルの経営者でもある社長さん。俺たちと取引してるって時点で、彼が白なのか黒なのかはお察ししてくれ。その奥さんである着飾った彼女は、若くて見目の良い男が好きらしいわけで、パーティーでの交流係、つまり彼女の暇潰し兼見張り要員には探り屋でイケメンのバーボンは勿論、若くて比較的見苦しくない俺が同伴者として選ばれた。これでウォッカが選ばれてたら笑ったんだが。

パーティーに参加するバーボンの表の顔は、安室透という駆け出しだが腕の良い私立探偵、だって本人が言ってた。
そして今日の俺は、そんな安室が気にかけなにかと世話を焼いている新米探偵の榊了。という設定らしい。ちょっと俺的には納得いってない。

『夫人に招待されたのに、行かないなんて有り得ませんよ』

さっそく仕事を始めたようで、かっこつけて最後にウインクを飛ばして見せるバーボン。てめぇ自分の顔が良いからってよくそんなわざとらしいことできるな。もし俺がお前の顔になれたとしてもウインクは無理。はずかちい
だが効果は抜群だったようで、あらお上手ねおほほ。とか口ではあしらってるつもりらしいが、彼女の頬はうっすら紅が差している。


『夫人、彼は僕の同業者の榊くんです。どこかで見かけたらよろしくお願いしますね』

「…はじめまして…榊了と言います」



取引は無事終わった、らしい
しばらくしたら俺たちも切り上げて良いとのお達しが来た。
俺は今すぐにでも帰りたいけど。

「まぁ、料理はおいしい。ビュッフェ、だっけ」
『あの主催者の汚いお金で料理が揃えられたんだと思うと食べる気失せませんか?』
「……バーボン、そんなこと言ってたら俺なにも食えなくなるんだけど」

なんて冷めた眼で見てくるんだバーボン。料理に罪はないんだぜ、食べなきゃもったいねえだろうが。
少なくとも、このパーティーの参加者の中で真っ白な奴なんて、いたとしても両手があれば全員数えられるだろってくらいだな。

「…お前、最近ピリピリしてるよな。…スコッチが死んで悲しいのはわかるけどさ」
『悲しい?いいえ、僕は怒ってるんですよ。彼が裏切り者だったと見抜けなかった僕自身にね。……彼は組織の裏切り者、だから消された。簡単なことです』
「……俺はあいつが死んで悲しい。仲良くなれると思ってたから」
『仲良くなって情報を聞き出す積もりだったんでしょう。利用される前で良かったじゃないですか』

では用は済んだので僕はこれで、と足早に去っていく。あいつにしては珍しく足音がうるさかった。

俺は馬鹿だから、バーボンが今何を考えてるのかはわからねぇ。だがそいつの浮かべた表情が、どの感情からくるのか判別くらいはできる。多分本能的なもんだろう。
さっきバーボンは怒りって言っていたが、嘘だ。

あいつは悲しい……スコッチが死んで悲しいんだ。
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