トリガーハッピーと銀の弾丸

□ろく
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ひやりと冷めた銃身はその温度とは裏腹に、ひとたび触れるだけで俺を昂らせていく


ぬらりと輝く黒は歓楽街で客を誘う女のような妖しい色気さえ感じてしまう

気候で気分がコロコロ変わってしまうのなんか、まさに我が儘女のそれだ

まぁ、愛があればそれさえ愛おしむ要素のひとつでしかないが


一番イイのは、やっぱりスコープを覗いて的を捉えたとき


引き金を引くときに口角が上がってしまうのは昔からの癖だ
治すつもりはない



────ぱしゅん



伝達係から任務完了の合図が届く
物足りない気がしなくもないが、残りの的はもう他の狙撃手に取られちまった。まったくつまらん
せっかくだからスコープいっぱいに広がった美しい赤を瞼に焼き付けることにしよう。

「今日はこれで終わりだってさ、お疲れ!メシ行こうぜ!」
『あんたのテンションの落差が怖いよ…』

てかその前に報告あるだろ…、と呆れ顔なのはスコッチ。初めの頃は顔もこわばって無駄口ひとつ吐かなかったが、最近ではだいぶ打ち解けてくれているみたいだ。

『狙撃中の自分の顔鏡で見た方がいいって。瞳孔カッ開いてニタニタ笑ってるとかこわすぎだぞ…』
「それ癖でさ、なかなか治んねぇのよ」

片付けを済ませ伝達係のバーボンを待っている間、取りこぼしを警戒してどちらも小型銃装備の小声という状況ではあるが、俺はスコッチと暇潰しのおしゃべりに興じていた。
これがなかなか楽しい。スコッチの話は分かりやすくて丁寧で、小学校の先生とか、交番のお巡りさん(直接話したことはないが)みたいな落ち着いた優しさがある。そして何よりイケメンボイスだ。


「え、それでライが来るまでその迷子?にギター教えてあげたの?」
『正しくはベースな』

いいんだよそんな細かいことは
モンダイなのは、任務中にパンピーとよろしくやってたってとこだよ。顔覚えられたら後が面倒なのに。

「お人好しかよスコッチ、この組織じゃ苦労するぞ」
『…いやぁ、放っておけないだろ?子どもなんて特に』
「…お前……いい奴だな。俺コミュ障だから話しかける以前の問題…」

打算も下心もなく善行ができる人間はこの組織ではなかなかお目にかかることはできない。俺だって、そんな面倒なことしない方が多い。
なんでこんな出来た人間がこんな水底みたいな組織にいるんだ?小学校の先生は人間中身が大切だなんて抜かしてたが、あれは嘘だったってことか?社会ってのはわかんねぇなまったく。

『2人で何ダラけているんですか?さっさと報告に戻りますよ』


「…なんかバーボン、機嫌悪くね?」
『…今日あいつ、ライとペア組まされてたからな…』
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