精霊の守り人

□すべての始まり
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新ヨゴ皇国。都である光扇京の名の元となる二つの川、

鳥鳴川が青弓川と合流した所から少し離れた所に、小屋がある。


元は、当代一と言われる呪術師トロガイの小屋であったが、

放浪癖のある人のため、いつの間にか、その弟子のタンダが譲り受けた形になっている。


そして今、その小屋には異国の少女が1人、居候している。


彼女は、北の隣国カンバルの正当なる王家の元王女、リラだった。


リラは10年前、理不尽な理由で両親と共に国を追い出され、5年前に母、3年前に父を亡くした。


幸い国を追われてすぐにあった出会いで、孤独を味わうことなく、

親代わりだった人と旅をしていたのだが、この春に怪我を負い、その治療の為、

此度の旅は同行していない。


傷を完治させた後は、タンダの手伝いをしながら、1人で鍛錬に励んでいた。


秋が深まって、夜も早く訪れるようになって。


リラはタンダと夕食の準備をしていると、一人の来訪者が現れた。


身なりは、あちこち転んで擦り剥いたのか、薄汚れた旅人の男の子に見えなくも無いが、

彼から無意識に醸し出す、高貴な雰囲気で、一瞬リラはバルサの事が頭によぎる。


「そち達が、タンダとリラか?」


男の子に、身元の確認を問われ、嫌な予感を感じながらタンダと揃って頷く。


「バルサを助けて欲しい。わたしはバルサと共に追われている者だ。

バルサがわたしを追っ手から守る為に、ひどい怪我を負った。だから…!」


それだけで、事情はだいたい把握した。タンダが一目散に外へ飛び出す。


夕食の準備は一端中断だ。リラは棚から、塗り薬の瓶を引っ張り出す。


そして、男の子の前に近寄った。


「あなたの名前は?」


「…チャグムじゃ」


リラのバルサと似ているようでどこか自分とも似た雰囲気を持っており、

彼女から目が離せない事にチャグムは驚きながらも、問いに答える。


リラは、チャグムに手を差し出した。


「バルサの事はタンダに任せて大丈夫だから。チャグムは、中に入って。

バルサと比べたらそりゃ軽傷だけど、チャグムも傷だらけだから。手当て、してあげる」


女性と殆ど接触を持たず、更に同世代の子とまともに話すのが初めてなチャグムは、

警戒心を持ちつつもリラの手を取る。


彼女に伝わったのだろう。リラは苦笑いして、言う。


「怖がらないで、大丈夫。バルサがまともに動けない間は私が守ってあげるから。

まずは、疲労が溜まっているチャグム自身を癒してあげないと、後が大変だよ?」


リラがバルサの代わりに守るって、リラは女子であろうに…

とチャグムは不思議に思ったが、声をかけてくれたリラは頼もしく映っていた。


そして、彼女の言葉に理が適っていると思い、肩の力が抜け、

一緒に囲炉裏の近くへ足を運んだのだった。
 

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