アメジストに手を伸ばす

□Episode.1
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ひゅう、と喉が鳴る
別に誰かに何か言われた訳じゃない、けど分かってしまった


「起きたのか、撫子…」


ずっと眠っていた私の半身
ずっと足りなかった私の半身
理屈なんて全てすっ飛ばして、それが満ち足りた事を本能で感じ取った

ポケットに入れていた通信機を取り出し、彼女の部屋で待機している同僚へと発信すると数秒間の呼び出し音の後、直ぐに暢気そうな声が返事をした


「はいはーい?どうしましたか?」
「容態は?」
「…流石ナイトですねー
現状に混乱してはいますが、身体に異常はありません。無事成功しましたよ」


その言葉に息をはく
とりあえず、人工転生での負担はほぼないようだ


「そうか、ならいい」
「おや、話さないんですか?せっかく起きたのに」
「…別に話さなくても」
「遠慮なさらずにー
撫子くん、今ナイトと繋がってるんでどうぞー」


遠慮じゃないのに、勝手にレインが撫子に通信機を渡したらしく彼女の慌てた声が聞こえた


「え、急に渡されても…!というかナイトって…」
「…馬鹿がすみません」
「あっいえ、大丈夫です…あれ?女の人、ですか?」
「…あぁ、前任にでも会いましたか?」


溜め息や緊張を我慢して、出来るだけ冷静に声を出す
撫子は、気付いてないらしい


「"ナイト"って名前じゃないんですか?」
「ナイトは役職名なんですよ
で、私が2代目」
「へぇ…」
「まぁ会うか分かりませんがよろしくお願いします」
「…あの、ちょっといいですか?」


彼女の声に、はい?と返事とすれば少しの間迷う様に黙ってから、小さく口にした


「貴女は、私の知り合いなんですか?」


ざぁっと、血の引く感覚
何でばれてるんだ、レインが何か言ったのか、何か、どうしてそんな
ーーーー撫子に、嫌われたくない


「違ったならごめんなさいっ
ただその、何となくそう思えて…」
「何と、なく?」
「あ、はい」


何となく
それは、さっき撫子が目覚めた事に気付いた私の様なものだろうか
あぁ、撫子も私との繋がりを感じていたんだと、泣きそうになった


「…貴女はここに来たばかりですし」
「そう、ですよね」
「まぁ会うことはないでしょうから、私の事は忘れてください」


"だからこそ、出来るだけ会いたくはない"
撫子の返事を聞かないようにそう言い捨てて、通信を切った




ーーまぁ実は、気になり過ぎて後ろに居るんだがな!


ふらりふらりと施設内を歩いている撫子の後ろを数m空けてつけていく

たまにすれ違う部下や他部署の職員達は、女性をつける幹部という奇妙な現象に訝しげな目を向けていたが苦笑いで誤魔化しておいた


そうして暫く歩いた撫子が辿り着いたのはエントランス
見事外に繋がるこの場所に辿り着いたあたり、この子の運はかなり強い

入口に立っている警備隊に話しかける撫子。多分外に出してほしい、という話だろう


……待てよ?
撫子の存在は政府内でも極一部しか知らない

何も知らない職員からすれば、撫子はただの女性
そしてあの警備員の仕事は"CZに出入りする人間のパスのチェック"だ
外に出す気はないのだからパスを持ってるはずのない撫子

「……駄目なやつじゃね?」

影に隠れていた身を乗り出して二人を見ると、警備員が撫子へ手を伸ばしていた

出ていくと正体がバレかねない。けど撫子が危ない状況


ーーどちらかなんて、考えるまでもない

直ぐにコートのフードを掴んで、影から飛び出した
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