アメジストに手を伸ばす

□始まりの記憶
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足りない

足りない

半分足りない



私の大事な半身、九楼 撫子が消えた
交通事故に遭って、病院に搬送された撫子が病室から忽然と姿を消したのだ

勿論動ける状態なんかじゃなかった
・・むしろ、医者には【医学的にば死んでいる゙】とさえ言われたのだ
そんな彼女が居なくなったということは、誘拐・拉致の類いしかない


犯人の心当たりはあった
最後に撫子を見たはずの理一郎に話を聞いた時、少し言い淀んでいたから

理一郎が撫子の行方を隠す訳がないし、予想出来ているならそれを言わない理由はない
ただ1つの可能性を除いては




「鷹斗ーー!!!!」

海棠グループビル前で、全力で叫ぶ
予想が当たってるなら正攻法で訪ねていってもどうせ出てくる訳がない
なら、少しくらいの無茶も迷わずやってみせよう


「あの子の居場所、お前が知っているんだろう!!」


声は空へと響く
否、空へ響かせるためだけの大声


「お前以外の訳がない!あの子を連れ去るなんてお前にしか出来ないだろう!出てこい!!」


普段話す友人達が見たら驚くだろうか
まぁ、撫子への手掛かりの為ならそんなことどうでもいいのだけれど


勿論直ぐに警備の人達がやってきた
数回訪ねた事があるから私を知っているようで、少しの躊躇いを見せながら注意してくる
それを私は


「っこら!待ちなさい!」


ーー無視して警備の人達の脇を走り抜けてビル内に侵入した

警備員、会社関係者、研究員
見かける人をそう判断しながら上の階を目指して駆け抜ける
これでも一応鍛えてあるので、早々と捕まる気はない


「上の奴等に伝えろ!子供が一人入ってきた!」「おいあの子鷹斗様の友人だぞ!?」「手荒な真似はするな!」


そうだ騒げ、出来るだけ騒げ
少し荒くなってきた呼吸を誤魔化す様に笑う

ダン、と階段を駆け上がってみれば上の階から私を追って人が降りてくるとその前の階で一度その階段から抜け出して他の階段を探す
追い付かれそうになったら、捕まる直前で急停止して縺れた足を払って転ばせる
そんな風な事をしていればいつしか人が恐ろしく増えていき、私の体力を底を尽きていた


「はっ…はっ…!」
「もう君も、限界…っだろう…?大人しく、しなさい…!」
「たかとは、どこ!」
「それは、」
「坊っちゃんは今忙しいんで」


奥からやってきた若めのお兄さんがウンザリした顔でそう言った。疲れた様子はないので多分このフロアで勤務してる人だろう


「どうせ坊っちゃんに惚れてるんだろうけど、本人は研究一筋…」
「なでしこ、どこだ…!」
「…はぁ?何言ってんだお前」


知らない、無関係者だ
お前じゃない。私が今会いたいのはお前じゃない…!!

ギッとそいつを睨む
それが気に食わなかったのか形相がガラリと変わり私へ敵意を向けて、手を振りかざした

ーーあ、叩かれる

反射的に目を瞑る
追ってきた人達の制止の声が聞こえた。そうして、頬に痛みが


「何してるの?」


来ないまま、そいつの声が耳に聞こえた


「ぼっちゃ、」
「その子、俺の友達なんだけど」


にっこり笑う彼
多分本人は本当に怒っていない、ただその顔が一番"効く"と分かっているだけだ

そのお兄さんはそのまま固まってしまった。周りの人達も息を飲んで身体を強張らせてる
それらを全て気にせずに、彼は私を見た


「随分と大胆な訪問するなぁ、下手したら警察沙汰だよ、大和」
「た、かと…!!」


やっと、やっと見つけた!
鷹斗の胸ぐらを掴んで、疲れも忘れて叫んだでやった


「あの子は何処だ!!!」
「…うん、だろうと思った」


ふんわりと、柔らかく笑う鷹斗
笑っている、そう笑っている。さっきと変わらない、はずなのに


「立ち話もなんだから研究室行こうか
大和の目的もそこだから」


さっき以上に、寒気がした




特殊そうなロックの掛かった部屋へと通される
私にはよく分からない機械が並んだ部屋の中、1つだけ見慣れた家具が置かれていた

その家具の上に、あの子が…撫子が寝ていた


「っ・・撫子!」


必死に駆けよって顔を見るが、特に顔色や体温なんかに異常は無さそうに思える。外傷なども特にない


「撫子用の保護カプセルがまだ出来てなくてベットで寝てもらってるけど、体調管理は怠ってないよ」


後ろの鷹斗はそう言いながら数枚の紙を渡してきた。見れば撫子の健康状態が書かれている
数値は、全て異常なし


「なぁ鷹斗」
「ん?」
「お前、何がしたい」


別にいちいちここに連れて来る理由がなかったはずだ。医療道具は病院に揃っている。会いたいなら見舞えばいい
なんで苦労して、"研究室"に連れてきたのか

もう一度にっこり笑って、鷹斗が口を開き


「撫子を、生き返らせたいんだ」


そう宣言した事でようやく気が付いた
こいつ壊れたのか、と


多分半身である私と同等に、鷹斗の中の撫子の存在が大きかった。大きくなりすぎた
その撫子が居なくなり、鷹斗の箍が外れてしまった結果がこれだ

しかも鷹斗は度を越えた天才、出来なかった事がまずない
こいつは人智を超える気で、そしてそれはきっと近い将来実現してしまうだろう

それはきっと悪い事
世界や神様に叛く大罪だ


ーーあぁけれど

「なら私も巻き込め」
「…本気?」
「そんなの当たり前だろ?
これは、撫子のためなんだから」


私も半身のためなら、全てを犠牲にしても悔いはないのだ

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