獄都の館にて

□魍魎の鬼ごっこ
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「取り逃がしたか」
気を取り直して探すか、と俺は制帽を被り直す。
本日の亡者はやたら足が速いことだ。俺が追い付けない程のスピードで逃げ回っている。余程捕まりたくないのか。
(思い通りにはさせない。絶対に捕らえる。罪人を野放しにしておくものか)


古ぼけた建物を歩くと、亡者らしき気配をひとつの部屋から感じた。
部屋の扉を開くと、勘通りに亡者が居座っていた。
「もう逃がさないぞ。亡者、諦めて連行されろ」
冷たく言い放ち、刀の柄を握り締めて部屋の隅の亡者に近寄る。
亡者は秀麗な顔立ちの女であった。以前の亡者は派手な服装だったが、この亡者は死装束を纏っていた。
睨み上げるような、責めるような目。
そんなものに惑わされることはなかった。
「もう一度言うぞ。諦めて連行されろ。お前の行く場所は裁きの庭だ」
『…』
亡者はようやく諦めたのか、よろよろと立ち上がる。
そのままついてこい、と言って先に部屋を出ようとしたとき。

「!!!」

背中から貫くような痛みに、壁に寄り掛かりしゃがみ込んだ。
…腹を見ると、亡者の憎しみの結晶が刺さっている。
「…貴様…っ!!」
『素直に連行されるとでも思ったか?でも私の味わった苦しみはそんなもんじゃない』
この亡者は平穏な街で生きていたらしく、就職が決まった次の日に事故死したらしい。
それは憎しみも刃のように尖ってしまうわけだ。
『あ〜でもあんた結構綺麗な顔してんね…獄卒やってんの勿体無いくらいだよ』
亡者はそんなどうでもいいことを端で喋っている。
立とうとしても、貧弱ながら腹の痛みでままならない。
…そのとき。
「!?」
今度は体が床に倒れた。
倒れた?違う。
倒されたんだ。
俺は、亡者の女に組伏せられる体勢で倒されていた。
「何のつもりだ!」
『いやだぁ。そんな楽しいなんてしねぇよ。せっかく獄卒始末できるんだしその前に調理してやるよ』
亡者はにやりと笑う。
何故か体中の気力が抜けていって、振り払うことができない。
亡者がナイフを振り上げた瞬間だった。
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