小噺

□君が、記憶喪失になればいいのに
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【トド松】

末っ子だから甘やかされて育った僕は、いつの頃から自分の思い通りいかない事が許せなくなった。それの願いが物欲であったならその物を買えばいい、食欲なら何かを胃に流し込めばいい。

だけど、今ほしいものは物ではなく者であって、とりわけ僕の隣に座ってコーヒーを飲んでいる名前だ。

付き合っているのだからと言えば名前は僕のモノで、僕も名前のモノであると思う。

満たされているハズなのに胸の奥がカラカラに渇いている。隣にいれば安心する反面、恐ろしいほどの焦燥感に追われて苦しくなる。

「どうした?トド松」

不思議そうにこちらを向いた名前の顔を見て理解した。

なんだ、単純なことじゃん
僕は名前を手に入れたと思ってたけど、名前には友達も会社の同僚も、その先の成功も持っている

「ずるい……フェアじゃないよね」

「えっ?」

座っている名前に詰め寄る、その歪んだ瞳に写る歪んだ僕の表情を見て歓喜に体が震えた。
今、名前が考えているのは僕の事、そして瞳に写るのも僕

「名前、全部、僕の物になってよ」

――あぁ、この渇きは物欲だったんだ

それならもう満たしてしまおう――


僕は名前に深く口付けた


【全部、僕の物になってよ】
 

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