書 庫
□聖夜に願いをこめて
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あの運命の夏以降慌ただしく季節は巡り、気が付けば周りはすっかり冬の装いとなっていた。
寒空の下、はるかは何だか一人取り残された気分になり苦笑した。
青空を仰ぎ一人佇んでいると、冷たい風が頬を撫でていく。その冷たさにはるかは思わず首を竦めた。
みちるとの約束の時間まではまだ一時間近くもあり、はるかは途中時間を潰すため本屋へ立ち寄ることにした。
使命遂行の為にレーサーという道を犠牲にしたものの、やはり好きな事に変わりは無くいつものように車のコーナーへと直行し、月刊誌を手に取った。
パラパラと頁を捲っていくと、嘗てチームメイトだった選手の特集記事に目が止まった。
トロフィーを掲げ華やかに笑うそのチームメイトの写真に、はるかは羨ましさと寂しさを覚えた。
戦士として覚醒していなければ、このページを飾っていたのは自分だったかもしれない…
この道を選んだ事を悔いてはいなかったが、自分が漸く見付けた居場所を手離さなければならなくなった事はやはり悔しかった。
思わず溜め息をつくと、はるかはパタンと本を綴じそれをまた元の場所へ戻した。
その場を離れ、隣の通路へと移動する。
そこで目に留まったのは音楽関係の棚だった。
見映えよく敷き詰められた本の中からはるかは『若き天才ヴァイオリニスト特集』と大々的に書かれた音楽情報誌を手に取った。
予想通りその記事の中にはるかは見知った顔を見付ける事が出来た。
そこには可憐に微笑むみちるがいた。
はるかは記事を目で追った。
プロフィールには四年に一度開催されるウィーン国際音楽コンクールで若干11歳という年齢で審査員特別賞を受賞し一躍世界の注目を浴びたとある。
記事にはその当時のヴァイオリンを弾く今よりも幼いみちるの写真も掲載されていた。
その姿に自然と笑顔が溢れていた。
パートナーの活躍が何とも誇らしく感じたはるかなのだった。