書 庫
□悩みの種
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梅雨の中休み。四日間まとまって降り続いた長雨はすっかり影を消し、今日は朝から青空眩しい快晴となった。
久々の週末の晴れということもあり、閑静な高級住宅地にある海王家の別宅では、せつな、はるか、みちる、ほたるの四人がそれぞれ家事を分担し、朝早くから忙しなく働いていた。
せつなは、家中を掃除機で駆け巡り、
(部屋数が多いので、かなりの重労働!)
みちるは普段の洗濯に加え、家族の寝具カバーを外しにかかり、洗濯をフル回転。
ベランダと裏庭にはあっという間に、沢山の洗濯物が風に靡いていた。
そしてその合間にはしっかりと拭き掃除でピカピカに。
はるかはトイレと風呂場の水回りを担当し、特に梅雨時はカビが生えやすいので念入りに、少々意地になりながら掃除していた。
愛娘ほたるはというと、みちるにしっかりと紫外線対策を施されて完全防備な出で立ちで、すっかり伸びてしまった庭の雑草をひたすら抜いていた。
『サイレンス・グレイブなら一発で刈れるだろうな〜』と不謹慎にも思ったことはみんなには秘密だけどね♪
それでもゴミ袋いっぱいになった雑草を見てほたるは満足気だった。
「みんな、お疲れ様!お茶が入ったわよ。そろそろ休憩にしましょう。」
みちるが声を掛けると、それまでバラバラだった家族はリビングへと集まって来た。
「あー、疲れたー。」
「お疲れ様、はるか。」
そう言いながらはるかに麦茶の入ったコップを手渡すみちる。
「でも家中綺麗さっぱりして気持ち良いじゃないですか。」
清々しい微笑みを溢し、コップに口付けるせつな。
「ええ、本当に気持ち良いわね。お庭もほたるが頑張ってくれたから紫陽花が映えててとっても綺麗だわ。」
「うん。ほたるも頑張ったでしょう?」
ニコニコするほたるを、はるかはご褒美にひとつ頭を撫でてやった。
「それで?昼からはまだ何かやらなきゃならないことあるの?」
「特には…。午後はゆっくり出来るんじゃないかしら?」
みちるがちらりとせつなに様子を伺えば、
「そうですね、随分と捗りましたからね。もう特に無いと思いますよ。私は資料の整理をしないとならないんで、昼からは自室に隠ることにしますよ。」
「そっか。ほたるは?」
「うーん、図書館で借りて来た本がまだ何冊かあるから読もうかな。」
「それじゃあ、みちるは?何処か行きたいとこあるなら連れてくけど?」
はるかに問われて、首を少し傾げて暫く考えるみちるだったが、やがてその細い首を横に振り、微笑んだ。
「…今日は止めておくわ。はるか、折角こんなにも晴れたんですもの、久しぶりにバイクで走ってらっしゃいな。雨の間、ずっとメンテナンスしてたのでしょう?」
みちるに気付かれてたことに、少し照れながら、
「…うん。いいの?…ありがとう、みちる。」
みちるの気遣いに満面の笑顔を浮かべ、そのぷっくりとした柔らかそうな唇へと甘い口付けを送ろうとはるかが近づいた瞬間…
「はい、そこまでですよ!」
せつなによってピシャリと遮られたのだった。