書 庫

□嫉妬?
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今年の5月の気温は平年よりも高いらしく、東京では早くも夏日を記録更新していた。

昨日に引き続き本日も気温がうなぎ登りに上昇し、すでに29℃を超えている。

みちるは週に一度のヴァイオリンのレッスンを終え、ひとり、自宅へと帰るべく歩みを進めていた。

その日のレッスンでは思い通りの演奏が出来ず、みちるにしては珍しく自己嫌悪に陥っていた。

途中、噴水のある大きな自然公園を通り抜ける。

良く整備されたその公園のあちらこちらの花壇には、美しい季節の花ばなが色とりどりに咲き誇っている。

今はちょうどバラが見頃で、この季節みちるは散歩がてらにそれらを愛でるのが楽しみの一つであった。

しかし、今日は…。

「…随分暑いわね。」

暑さに滅法弱いみちるはこの気温にかなり堪えていた。

立ち止まり「はぁー。」とひとつ息を吐き、手を翳して空を仰ぎ見た。

クラクラする程に陽射しが眩しい。あらゆる思考能力が奪われそうだ。

「…泳ぎたいなぁ。」

そう呟きながらまたゆっくりと歩きだした。暫くすると、みちるは緩やかなカーブの先方によく見知った姿を見つけた。

蜂蜜色の髪。遠くからでも良く分かる。間違えようがない、はるかだ。

そしてそのはるかの向かいには金髪のツインテールを靡かせた、笑顔が眩しい月野うさぎが愉しそうに話している姿が見えた。

みちるはまたも立ち止まった。

ここからはまだ距離がある上、道端に植えられた木々も邪魔して向こう側からは死角となっている。

二人に気付かれることはないだろう。

みちるは二人を茫然と眺めていたが、やがて前に歩みを進めることはせず、逆に踵を返して元来た道を再び歩き始めた。

『あんな顔見ちゃったら、邪魔しちゃ悪いわよね…。』

普段のみちるなら、はるかの周りにフリークの女の子達が取り巻いていようと臆する事なく涼しい顔で声を掛けるのだが…。

暑さのせいなのか、はたまた別の感情からなのか、その時のみちるにはいつもの余裕らしき余裕はこれっぽっちも残ってはいなかったのだった。
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