書 庫
□争奪戦
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―その1―
「はるかパパ!今日はぜぇーたい負けないんだからね!」
そう挑む、大きな瞳に真っ黒なサラサラおかっぱヘアの美少女は、ここ外部家の愛娘ほたる。
「いくら可愛いほたるでも、こればっかりは譲れないな。」
一方、フフンと勝ち誇ったように笑う長身の美男子?いえ、失礼。美少女は、はるか。
ここ数日、午後8時半を過ぎた外部家のリビングでは毎夜ソファーを間にはさみ、睨み合う二人の姿が。
カチャッ。リビングのドアが開いた。
「ただいま…。」
そこへ仕事を終えて帰宅した、褐色の美女せつなが顔を出した。
「あっ、せつなママ!お帰りなさーい!」
「お帰り、せつな。今日はいつもより早かったんだね。」
「ええ、おかげさまでようやく目処が付きましたので。明日からは早く帰れますから、夕飯の支度も用意出来ますよ。長い間ご迷惑をお掛けしましたね。…それより二人共、突っ立って一体何をしているのですか?」
「ははっ、ちょっとね…」
頭を掻きながら苦笑する、はるか。
「?」
「それより夕飯まだなんだろう?今日はほたると肉じゃがを作ったんだ。」
「うんとね、ほたるがじゃがいもの皮剥きと味付けのお手伝いしたんだよ。せつなママ早く荷物置いてきて、食べてみてよ。とっても美味しく出来たんだよ!」
「ほたるが味付けをですか!?それは楽しみですね。では、すぐに着替えてきますね。」
せつなが二階の自室へと歩き始めた時
PURURU… PURURU…
リビングに電話音が鳴り響いた。
ちょうど電話のすぐ側にせつながいたので、何の躊躇いもなく受話器を取り上げた。
「あっ、せつなママずるーい!!」
「やられたっ!思わぬダークホースがぁー!」
「?」
後ろがやたら騒いでいるものだからそちらを振り向きつつ、電話の主を確認する。
「はい。あっ、みちるですか?」
思わず笑みが溢れる。1週間ぶりに聞く心地好い声。私達の大切な家族。脳裏に彼女の優雅な姿が思い浮かんだ。
「えぇ、元気ですよ。あなたも無理はしていないでしょうね?…そうですか、それは何よりです。…フフッ、嬉しいですね。ありがとうみちる。…えぇ、分かりました。…ほたるですか。今、代わりますよ。」
「ほたる、みちるからですよ。」
そう言うが早いかほたるが「はーい!」と走って来て受話器を受け取った。
「あーあ、今日は僕の負けか…。」
ソファーにドッカと座り込むはるか。
「さっきから一体、何なんですか?」
不思議に思い、はるかに問うせつな。
「いやぁ、いつもみちるから電話がさ9時前位にかけてきてくれるから。ほたるとね、その争奪戦を…。ハハハ////」
「それで…。まぁ、確かにみちるの声を一番に聞けるのは嬉しいものがありますね。」
思わぬせつなからの賛同に、
「そうだろう!?やっぱりせつなもそう思うか!」と身を乗りだし笑顔になるはるか。
「そうですね、明日からは私も早く帰れますし、みちるの争奪戦、仲間に入れてもらいましょうかね。」
ニヤリと微笑する。
「げっ、せつなまで!大体、みちるは僕のも
「はるかパパ!みちるママが代わっててさぁ!」
「! み、みちるー!」
慌ててほたるから受話器を受け取り、嬉しそうに話し出すはるかに苦笑するせつな。
『まったく、あの二人の事だから、きっと寝る前にも電話ぐらいしているでしょうに…』
「ほーんと、はるかパパってば子供なんだからっ!」
なんてケラケラと笑うほたるにギョッとして「コラッ。」とほたるの額をこずいて嗜めた。
「ほたるも随分とませてきて、困ったものですね。」ひとつ溜め息をついてみせると、
「へへっ。」と舌を出し頭を傾げるほたる。
その可愛らしい仕草に微笑し、サラサラの髪をひとつポンッと撫でると、せつなは今度こそ二階へと歩き出した。
みちるのいない、そんな外部家族の日常の風景。
END