逆転裁判

□はじまり
2ページ/4ページ

■同日 午後1時50分 第三法廷■

律歌は初めての法廷に圧倒されていた。

決して少なくない数の傍聴人に金色に輝く法の象徴(マーク)

弁護士席と検事席にはお互いを牽制し合うかのような緊迫感が張りつめている。

被告人の運命を左右するのだから、当然といえば当然なのだろう。

弁護士側から緊張した雰囲気がひしひしと感じられる。

律歌の座っている傍聴席からは、検事席がよく見えた。

そこにいたのは法廷が初めての律歌から見ても、一風変わった人物だった。

文明開花時代の剣士を思わせる黒いスーツとモノクロのコントラストが美しい陣羽織。

腕には頑丈そうな手錠が金属特有の光沢を放ち、さらにはまだ若いであろうに黒髪の前部が一部白髪と化していた。

だが、何よりも律歌の目を引いたのはその人物の目だった。

鋭い眼光を放ち、目の下のアザも相俟って周りの者に畏怖の念を抱かせるその目を、しかし律歌は不思議と怖いとは、思わなかった。

「あの検事、囚人らしいわよ」

よほど検事席を見ていたから物珍しく思ったのだろうか、隣の傍聴人が話し掛けてきた。

『囚人……ですか?検事なのに?』

「お偉いさんの命令でやってるらしいけど、あの目つきは本物よ。怖いわね〜」

そう言って眉を顰めるが律歌はどれだけ見ても、囚人であるという検事に対して怖いとか恐ろしいといった感情を抱けなかった。

『私は、怖いとは思いませんけど……』

特別大声だった訳ではない。
きっと分類するなら、その他大勢の呟きに過ぎないその一言。

だがそう言った時、確かにその検事と目が合った。

前髪でできた影の奥の黒眼で律歌を注視する。

時間にしてほんの数秒。

しかしその間になんとなくのカンではあるのだが、律歌は彼が何かを抱えているのを感じ、同時にその瞳を美しいと思った。

その時、被告人が現れ、裁判長の木槌の音が裁判の始まりを告げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ