灰色庭園

□好きだよだけは言えない僕ら
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昼、神田が帰ってきたからと言って、アレンは稽古をつけてもらいに行った。
その夜、アレンは食堂に出てこなかった。
「アレン、いるさー?」
ラビはコンコンと、アレンの部屋のドアをノックする。返事はない。
ドアを押すと、鍵は掛かっていなかったらしく、簡単に開いた。
「……アレン?」
中を覗くと、布団に顔をうずめてしゃくり声を上げる小さな後ろ姿が見えた。
「どうしたさ?」
近づいて声を掛けると、はっとしたように、アレンは顔を上げる。目は泣きはらしたせいで真っ赤だった。
「何でもないですよ……ラビ。ちょっと嫌なことがあっただけで……」
「何でもないって顔してないさ」
ラビはそっとアレンの頭を撫でる。
アレンはまた、ふぇぇ…と、小さくしゃくり声を上げた。


「貧層だとか…」
「……」
「男らしくないだとか…」
「……」
「……しかもガキだって言ってきましたし……」
そう言ってアレンはぷくっと頬を膨らませる。
ラビがアレンの話を聞くこと30分。神田のアレンに対する悪口はよく底を尽きないな……などとラビは不覚にも感心してしまった。
(本当にユウは不器用さ……)
剣術は得意なのに、口下手すぎる。
「もう、あんな神田なんて知らないんですから」
「ユウのこと、嫌いさ?」
唐突にラビはそう聞いた。
「そんなの、嫌いに決まって」「本当さ?」
「えっと……」
「誰にも言わないから」
ラビにそう言われ、アレンは困ったように人差し指を口に当てる。
「……内緒ですよ?」
それから小さく一言呟いて、アレンははにかむように笑った。


「でもやっぱりそれとこれは話が別です!」
再びすねるアレン。
「神田なんて、絶対に大好きって言ってあげないんですから!」
ラビは微笑ましくそれを見つめる。
「絶対に言ってあげないんですから!」
ぷくっとしてアレンは布団に潜り込んでしまった。ふて寝でもするつもりだろう。
「アレン」
ラビはそっとアレンに声を掛ける。
「?」
「俺のこと、好き?」
アレンは不思議そうに首を傾げてから、ふわりと笑った。

「好きです」
「そっか」


あれんが寝息をたてたのを確認してから、ラビは少しだけ寂しげに笑った。

「だってさ、ユウ」
ドアを開けると、神田が立っている。
「あとはよろしく頼むさ」
「てめえはいいのかよ」
神田がラビに聞いた。
「いいんさ。アレンに謝りたいならちゃんとアレンの機嫌の取り方覚えとけよ、ユウ」
「……うるせえ」
そう言う神田の顔は少しだけ赤かった。


「はああ……」
アレンの部屋を出て、ラビはため息をついた。
「あーあ、振られたさ」

『大好きですよ』

きっとそれはアレンの神田に対する本心だから。
生まれて初めて心から好きになった子と、自分の親友。


願わくば、二人に最大限の幸福を。

〜END〜
 

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