羊頭狗肉

□あっちにこっちに
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「どうした……オホン!どういたしました?夜中に、こんな海の真ん中で…」


ハプニングもありつつ何とか船に乗せてもらえた流刑船乗船者一行の私たち

おそらくこの船のお偉いさんみたいな人たちが甲板に立っていた

白い髪で白いヒゲを生やして厳しい顔でこちらを見ているおじさん
そして少し離れた後ろで、今度はシュッとした生真面目そうな雰囲気の若い男の人がこちらを静かに見ていた

ふたりとも腰のベルトに立派な剣を携えている

ジュエルさんも部屋を飛び出した時にろくに荷物もまとめられなかったのに剣だけは無理矢理にでも持って出てきたのを見ると、この世界では持ってて当たり前なんだろう

タルさんもラズロさんも持ってるし
ラズロさんに至っては左右に2本もつけてる
私だったら1本だってもて余すのに2本も…

前は1本しかなかったのに、あの部屋のどこにあったんだろう


「この船はどこに向かってるの?」


さっき言われたとおり、こんな夜の海のど真ん中であんなボロボロの船に乗ってるなんて、どこからどう見ても一般的ではない私たち
そんな5人組を船に乗せたことでか、遠巻きに見る人も目の前のおじさんも怪しそうな目でこっちを見ている
しかしやはり私以上に空気を読まないチープーさんは、おじさんの質問に質問で返す
心強すぎ

さっき船が揺れたときに転けないようついた手がずっとずきずきちくちく痛む


「ここら辺に港はあるか?」


ケガしちゃったかななんてそっと手のひらを見る
擦りむいたような跡は見えないし、血も出てない
……いや血が滲んでるかも


「そうそう!海図は?海図を見たい!」


手を顔の前まで上げてさすがに少し灯りが足りないと目を細めて見た
何か刺さっちゃったのかも


「あっ、そうだ、この船チーズある?俺もう腹ペコで〜…」


すると横からラズロさんが何をしてるのといわんばかりにちょっと覗くように私の方に顔を寄せた


「むむむ!!うるさい!!!一度に言うな!!!」


「っ!」


そして話に意識半分だった私の耳に突然、声を大きく荒げたおじさんの声がキーンと届いた

その剣幕に目を開いて身体を反射で下げる

みんなもその声にびっくりして身構えている
一瞬手前に私と同じように意識を反らしていたラズロさんも驚いて咄嗟に腕で顔を隠すようにしていた


「まったく頭痛がするわ!
あとで話しは聞いてやる。少し休んでろ!」

「……………」


タルさんもジュエルさんも顔をひきつらせて固まっている
チープーさんなんて元々の猫背がさらに酷くなっている


「……ごほんっ!いや、お休みになってはいかが?」


そんな時の止まった私たちに仕切り直すようおじさんがもう一度言い直す

でももうあの逆鱗に触れた後では私たちの硬直は解けずに瞬きだけを繰り返した


「………じゃ、じゃあ…………お言葉に甘えて……休ませてもらおっか……。」


そおっと動き出してジュエルさんが様子を伺うように提案した

それにみんなで何も言わずに頷いた
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