羊頭狗肉
□扉を開けて
2ページ/2ページ
それから目の前の人、ラズロさんが私に話してくれたことは
私が突然この部屋にやってきた時のことと
ついさっき私を慌ててこの部屋に送り返したことの説明をされた
「えっ………じゃあ私、ここに居ることを他のき、騎士団?の人にバレたら……えっ、し、死ぬんですか………。」
「いや……死ぬまでかは分からないけど……でも良い事には多分ならないと思うな………。」
どうやらこのラズロさんは私の身を案じて保護してくれたようだと話の流れで理解して何か大変申し訳ない気持ちに頭が上がらない
とりあえずお互いの状況を飲み込んだ私たちはまず他の人に見られるとまずいということを分かち合った
私は他の人に見られると不法侵入ということでここの海上騎士団とやらに処されるし
ラズロさんはそんな得体の知れない人を匿ってる共犯者のようなことになるという
しかし私がここからどうも動けなくなってしまったのがついさっきの話
要約するとその
日本なんて知らんって言われた
いやそんな言われ方してないけど
私は自分がここに来た過程を聞いて全く覚えのないハプニングに他人事のように思い
とりあえず今の私がするべきことと言ったら帰ること
それ以外無い。
しかし先ほど説明された中でここは、らずりるのがいえん海上騎士団の訓練生寮の一室だと言われた
いや何?がいえんのらずりるって
なんて現在地もよく分からないまんま他人任せに自分の住所を伝えると首を傾けられた
住所を遡って県を遡って国を伝えて
どこまでいっても噛み合わない
「……ごめんね。そんなところ知らないや。」
「……………す、すみません………。」
結局私はひとつもまともな情報が手に入れられず気まずい雰囲気に包まれようとしたとき
ラズロさんから言われたのは私が下手に外に出ると人権を失いかねないということ
もう八方塞がりだ
ここを出るということすらも身の危険に繋がるし、無事に出れたとしても帰る場所が分からない
「………夢だ………。」
俯いて自分が今からすべきことを考えたところでついそう口をついて出た
「………。」
ラズロさんはそんな私を目の前に言葉が聞こえたのか私と目線を合わすために膝をついたまま顔を横に一度反らしてまたこっちを向いた
「……そうかもね………。
……でも夢の中でも尋問は受けたくないと思うから……ここにいていいよ。僕仕事中だから……。」
そうとだけ言うと立ち上がり、顔を上げた私と目を合わせると振り返って扉の方へ歩いていく
「あ、あのっ………ありがとうございます………えっと、私、名無しちゃん、です。…すみません……。」
その後ろ姿にハッとしてベッドから立ち上がり
あまりの出来事に忘れていたことを溢れさせた
順番も内容もぐちゃぐちゃだけど慌てて言ったばかりに取り返しもつかない
「……。」
何だかカッコ悪いし場違いな名乗り出だったと恥ずかしさが追ってくる
顔をじわじわ反らしながらもう一度小さく謝ってしまった
「………そっか。
…名無しちゃん。うん。……じゃあ。」
とだけ言うと扉を開けて静かに閉められた
「……………。」
最後に見た茶色い髪に混じる赤いバンダナが、やけに瞼の裏に残るようだった