羊頭狗肉

□差し合い
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「…………何も、無いな………。」


「向こうにも、なにも、誰もいませんでした……。」


あの暗闇からハッと目が覚めると自分が地面に倒れていることに気が付いた

生きていることにびっくりして身体を起こすと陽も高くなったころでじりじりとした暑さが肌を焼いていた
頬に粗い砂がくっついているのを不思議に思い
砂をぱらぱらと払い落としながら周りを見ると
すぐ近くに倒れているタルさんを揺り起こしてるラズロさんを見つけて、奇跡的に誰ひとり欠けることなくここに流されたことを理解した



そしてみんなが特に健康に影響なく意識を取り戻し、島を分かれて見回したところ何も無いし誰も居ないことを確認した


「じゃあ、ここは無人島ってこと……?」


チープーさんが顎を引いて不安そうな声で言った


「そういうことだよね……。」


「ああ……。」


ジュエルさんが同じく気を落として頷いた

タルさんもバツが悪そうな顔で、風で飛ばされてくる砂浜の砂を払っていた


乗ってきた船は元から貧相な出来をしていたけど
今となっては帆はぼろ切れ同然、床には大きな穴が空いていて縁なんかはボッキリいっている部分もあり、いっそ凶器だ


「う……やだよう……こんな所でカラカラに干からびて死ぬなんて……。」


チープーさんのその言葉でみんなの表情がさらに落ち込んだのを空気で察した

私も何も言えずにその空気から目を反らし、息を吐いて波を立てる海を見た
あの屋上から見た以来の、光を反射する輝くような海だ


「……すごい……」


つい目を反らした先の景色に気を取られて小さく口に出してしまった
ここまでしっかり見ていなかったものに目を開いて光をたくさん取り入れた


「海は、ラズリルで見るのよりきれいかもね……。」


私がそう言ったのが聞こえたのか、ジュエルさんが頷いて空元気な笑顔で言うと、ラズロさんもその海を見て


「ここで暮らすのも悪くないかも。」


と言った


「ちょ!?」


「ぶっ!おいっ、冗談だろ?ラズロ……!?
俺はここを出た方がいいと思うぜ!」


その言葉にタルさんが噴き出して、慌ててそれを否定した
私もその言葉に驚いて目を向ける
この畳み掛けるような出来事に気をおかしくしてしまったのだろうか


「まあ、いろいろありすぎて疲れたってのも分かるけどよぉ……。」


頭をガシッと掻いたタルさんは片足に体重をかけて、未だ真面目な表情のラズロさんを見て苦笑いを浮かべた


「いや、ここで暮らしたいな。」


そんなタルさんを見ても、ラズロさんは顔色ひとつ変えずにタルさんに真っ直ぐ言う

ラズロさんの突然の提案に驚いた他のみんなも首を縦に振ってタルさんに同意していたが、更なる押込みを聞いて腫れ物のように宥めようとする


「いいいやいやいや!さすがに!さすがに…………
……本気でそう思ってるの?」


ジュエルさんも顔こそ笑っているが焦った態度で両手を振ったが、ジッと視線を合わせたラズロさんの目に数秒見つめられ、上げた肩を下げると声のトーンを些か下げて聞いた


「うん、ここで暮らしたい。」


するとその質問にも、やっぱり表情変えずに真面目な顔して頷いた

ジュエルさんもその返事に口を半開きにしてタルさんと目を合わした
隣に居たチープーさんも首を動かして私と目を合わせる

チープーさんの大きな黄色い猫目はこう言っている

本気なのかな……

私も同じ気持ちでほんの少し首を傾けて、分からないと目だけで答えた

そんな全員の顔を見たラズロさんは、少し間を置いてから笑って静かに言った


「ごめん、島を出よう。」


その言葉に行き詰まった沈黙が起こり
みんなで口を半端に開いて顔を見合わせてからジュエルさんが胸を撫で下ろす


「……あ、あーびっくりした!諦めるにはまだ早すぎるもんね!やるだけやってみようよ!」


「そうだよな、それに賛成だ。ま、無人島暮らしも悪くないかもしれないけどよ。
全くラズロ、びびらせんなよ!本気なのかと思ったぜ!」


じわじわ張っていた緊張の糸がぷっつり切れてみんなが息を吐いて笑顔を取り戻すとタルさんがラズロさんの肩に手を置いて笑った


「本気だったよ。」


「え」












「冗談だよ。」






緊張の糸が切れたはずなのに、またもや一気にピシリと時が止まる
それを見計らったようにラズロさんがいたずらに言うが、晴れた空気が戻らずに疑いの雰囲気が色濃く残る


「…………お、俺、お腹空いたな〜、何か食べたいよ。」


その中でチープーさんが止まった尻尾をそーっと動かしてちらっと呟き止まった時間を動かした


「……私、ラズロさんの冗談がまだよく分かりません……。」


「……いや、俺も分からん。」


タルさんが深刻な面持ちで言った

じゃ誰なら分かるんだよ



ラズロさんは無言でなんか頷いてた
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