羊頭狗肉

□見えない
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「あのラズロが団長を殺すなんて……」


「自分の扱いに満足できてなかったってこと?」


「まあ他にもあったのかもしれないけどさ。殺すなんてよっぽどだよな……。」


いくつかの足音がすると一緒に話し声も聞こえる


ラズロさんの部屋より人通りの多いここは、あの時の騒動で話題が持ちきりの騎士たちの話がこうやって聞こえてくる


「………ラズロさん……。」


建物の外に残された私は
ラズロさんの後ろ姿が見えなくなったと同時に、周りに騎士団の人たちしか居ないことにハッとして
どこに行って良いかは分からないけど、足早にその場から離れようとした所で、急に肩を掴まれた


それがタルさんだった


それからジュエルさんの寮部屋に急いで押し込まれ2日ほど経ったろうか

ラズロさんの部屋に居たときと同様に部屋でひとりイスに座って頬杖をついた



ここはラズロさんの部屋とずいぶん違って、ちゃんとした部屋。って感じ
そもそも建物事態が違ったからあの部屋が変なんだろうなあ



タルさんとジュエルさんから聞いた話では

ラズロさんはあの海賊に襲われた騒動の際に、属している騎士団のグレン団長という人を屋上で殺したという

そしてラズロさんは今、その団長を殺した罪で処分が下されるまで部屋に謹慎させられているらしい

タルさんもジュエルさんも、そのことを信じていないと言ったが
どうにも、ラズロさんが団長を殺したと報告したのがラズロさんの一番といえる友達だったそう


「スノウが見たって……屋上で団長が倒れてて、そのすぐ側にラズロが………………。
団長は真っ黒な灰のようになって消えてしまったからスノウの言った言葉しか証明がない。」


「部屋には入っちゃいけないし………スノウに聞いても何にも言ってくれない…。
……ラズロが殺したなんて、きっと何かの間違いだよ。」


「……………。」


私はタルさんとジュエルさんの話しにはほとんど参加しなかった

正直何か言えるほどのものも私には無いし、団長とどんな関係だったかとかその友達のスノウさんのこととか、良くも悪くも何も知らない


でも、私の知り得る限りのラズロさんが……とは思う


事が起こったのは多分、私を外に連れ出してから建物に戻っていった後なんだろう

あの外の惨状を見たところ相当なことがあったのは明らかだし、ラズロさんも大変な目にあったんだとは思う
その中で私に言ってくれた言葉を思い出す


後できっと迎えに来るからっ、て……


私のことなんて気にしてる場合じゃなかったと思うのに


どんなつもりで言ったのかは分からないけど、あんな状況でも私を気にかけてくれたのは嬉しかった


相変わらず夢は覚めないし家にも帰れないけど、それを嘆く気にもあんまりなれなかった

映画でも見てるみたい


そんな自分の都合の良いよう他人事に思いながらジュエルさんが持ってきてくれた水を口に運ぶ


「名無しちゃんっ!」


「んぶぁっ!」


その時、タイミングを狙ったかのように途端に扉が乱暴に開けられ名前を大声で呼ばれる
両手で持ってたコップを大きく揺らし口に入れ掛けた水を吹き出した

部屋に駆け込んできたのはジュエルさん

扉を閉める事もせずに着ていた胸当てを外して鎧を脱ぎながら部屋の奥にある棚を開けた


「げっほ!ううっ……どうしたんですか?急に……ごほっ!」


不意に飲み込んだ水に噎せながらただごとではなさそうな様子のジュエルさんに聞くと、着替える手を止めないまま焦った表情で言った


「ラズロの処分が決まったの!国外追放……流刑になっちゃう!!」


「国外追放!……る、るけい?」


聞き慣れない言葉に戸惑いながら立ち上がるとシャツに頭を通して


「流刑だよ!海に流されちゃうの!急いで準備しないと……!名無しちゃんも行くでしょ!?」


「え、どっ、どこにですか!?」


「ラズロの所!ほら早く!」


そう言うと私のカバンをひっつかみ、外してベッドに放った剣を一緒に持つと私の手を掴んで部屋の外に駆け出した


やばいデジャヴだ





久しぶりの外に出ると、もはや青空を忘れかけてる私に追い討ちかけるような真っ暗な空が映し出された

騎士団の仕事は朝も昼も夜もあるから外に出ない私には時間感覚が無かったが
こんな夜に海に出るのか
大丈夫なんだろうか


霧の濃い外に出て港の見える大きい門を小さく開けて潜る


「今は見張りが唯一居ない時間なの。
まっ、あたしが出てないせいだけどね。」


「え、それってやばくはないんですか?」


「うん!バレるまではね!」


門を潜るとこの前見た港が姿を現す

けれど前に見たような海の青さはこの暗さのせいで面影も無い

光の無い黒い海は何でも吸い込んじゃいそうで
ここ最近で色々ありすぎた私でも、さすがに怖気付く


そんな暗さに怯えた私のすぐ横でジュエルさんが灯りをつけて、慌てて持ってきた荷物を私が持つ


がちゃがちゃとたくさんあるから落とさないようにするのが精一杯だ


「気を付けてね。あそこの桟橋まで行くから。」


両手で荷物を抱えて巡回の人が来ないうちにと小走りで目的地に向かう


「………わあ………。」


ジュエルさんが指差した桟橋まで来れば海がもう足元まで近くにある


そしてその桟橋に寄り添うように見上げるほど大きな船がそびえ立っていた


「おっ!やっと来たか!人が来る前に早く乗れ!」


その船を見上げていると急に船の上から聞いた事のある声がした

タルさんが船に乗って上から私たちを覗き込んでいる
見知った顔と多少の灯りでほんのちょっとは気が楽になるが、タルさんが私たちを見るなら上からほいっと投げてきたロープに少し嫌な予感をさせる


「んじゃ、そのロープで登ってきてくれ。タラップ出してる余裕は無いからよ。」


やっぱりか…
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