羊頭狗肉

□さめない
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結局、ずっと変わらずに部屋に居る


夢だと信じてよくある頬をつねってみたり逆に寝てみたりと色々と試行錯誤を繰り返したがひとつも効果は見られなかった

頬が痛い


ここに居ていいと言ってくれた親切に甘えて一歩も外に出ることなくひたすらこの部屋の中で過ごしている

そして考えたことは

多分だけど私は自分の足で帰れない所に居るんじゃないかと思った

こんなの夢だと信じたいけどどうにも覚める様子は無いし頬をつねって痛いということは痛いことしたら痛くなる(IQ2)

つまり起きるためと言っても無茶はできない


「………どうしよう……。」


ラズロさんが言うには私は外に出たら人権が無くなるらしいし


正直くそ怖い


窓の無いこの部屋は扉がひとつあるばかりでそれも直接外に繋がってる訳じゃないからチラリとも外は見えなくて外の様子や時間もよく分からない

結構この部屋にいた気もするけどそもそも私が起きたのが朝とも限らない


完全に投獄されている


相変わらずスマホはひび割れ酷く画面ひとつつかない

部屋の隅にあった自分のカバンを見てもこの事態を乗りきれそうな物はいっこもない

飴が入ってた

だからなんだよ


「………はぁ……。」


ごそりとしょーもな飴ちゃんを胸ポケットにしまい膝に置いてたカバンを抱き締めるように頭を置いた


ガチャ


「っ!!!」


その瞬間この部屋唯一の扉が開く音がした

ガバッ!とその音に反応して顔を上げると視線の先にはラズロさんが少し驚いた顔をして立っていた


「…夢は覚めなかった?」


「………あ、はい……すみません……。」


身構えた私を見て表情を戻して扉を後ろ手に閉めながら本気か冗談なのか聞いてきた

夢が覚めないばっかりに人の部屋に居座り続けた事への罪悪感が急に押し寄せベッドから慌てて立ち上がる


「いいよ。座ってて……あ、でもやっぱりこっちのイスにして。お腹空いてない?」


「え?」


扉を閉めてテーブルに持っていた物を置いて私に言う

ぶっちゃけ今日ここに来てから混乱続きで頭が回りきらなくてお腹が空くという概念が無くて返答に困ってしまう


「お祭りがあって…。ちょっとだけど、貰ってきた。どうぞ。」


「え、あ……ありがとうございます…。い、いただきます……。」


一切変わらない表情に内心びくびくしながらカバンをまた隅に置いてイスにゆっくり座った

そして私のすぐ近くでラズロさんが腰の剣を外して壁に立て掛けながら座る


「……お祭りって……何のお祭りなんですか?」


ラズロさんがガタンとイスを引いた音を最後にシンとした空気にいたたまれなくて目の前のご飯に手を合わせながら、聞いてもいいのか不安になりながら質問した

この空間事態異常だしこんな時にそんなこと聞いてる場合かと思って少し後悔する


「今日は海上騎士団の訓練生の卒業試験で、それの合格祝いのお祭り。」


「あ……そうなんですね……ラズロさんも卒業したんですか?」


「うん。」


「へえ……あ、おめでとうございます……。て、私が言うのも変ですよね。」


「いや、別に。…ありがとう。」


パンを取って半分にちぎりながら自分から聞いたくせに返事に困ってしまう

とりあえずありきたりな事を言ってはみたけどこんな得体の知れない奴から言われたって意味分かんないよなと反省する


でもそんな私に特に何とも思ってなさそうに真顔のまま相槌を打ってくれる


「………あの、すみません……本当に……。私も、なるべく早く帰れたらと思うんですけど……。」


ちぎったはいいけど口に運ぶ前にまた謝罪を始めてしまう
私のしょうもない質問に答えてくれたり私にご飯を持ってきてくれたりと、基本的に凄く優しくしてはくれるけど絶対迷惑だよなと思い返す


だって私が逆の立場だったら、何だこいつ怖。早く帰れよ。くらい思うし
なんだったらそもそも知らないふりして通報して終わりにする


「……さっきも聞いたけど、なにか紋章の力……じゃないんだよね?」


「もんしょう………すみません。よく分からないです。初めて聞きました……。」


「………。」







気まず


まじでなんだっていうんだ。私が何したっていうんだ。本当に夢なら早く覚めてくれ
何が悲しくて私は自分の夢でこんな辛い思いをしなくちゃならないっていうんだ。


結局ひとくちも口に運べないままお皿に置いて一緒に持ってきてくれたコップを両手で包むように持った


水に反射する部屋の灯りがきらりと光る



「……僕はね、君は別の遠い所から来たんだと思ったんだ。」


「………はい?」


そんな不思議な水の揺れを落ち込みながら見ているとラズロさんが頬杖をついて私を見て言う

急な言葉に顔をあげるとこっちを見ていたラズロさんの青い瞳と目が合った


「何か紋章の力で、とも考えたけど……紋章を知らないなんて人、多分だけどこの世に居ないと思う……。
……何となく、君が嘘ついてるとも……分からないけど、そうじゃないと思ったんだ。」


「…………。」


「だからきっと、君はずっと遠い別の世界から来たのかなって思ったんだ。」


なんて反応すべきなんだこれ


私もそう思います!

便乗感が過ぎるかな


そんなのあり得ないですよ!

いや実際あり得ないことだらけだしな


「……えっと……はい……。」


そして結局何も言えない

私は何てつまらない人間なんだ


「…やっぱり変な考えかな。」


「えっ!……い、いえっ、私もそんな感じで考えてました!」


頬杖を外してふと目を反らされて遠くを見るような感じになったのを見て慌てて訂正する

便乗が過ぎた

目のやり場に困ってまた手元のコップに視線を落とす


「……でもそれならどうやって帰ろうか。本当に夢なら起きるだけだけど。」


とまたもや冗談なのかよく分からない声のトーンで話す

私が言い出した説ではあるけど…

馬鹿にするようでもないけど冗談で笑いを誘発させるような感じでもない

見てないけど絶対真顔だろうし声のトーン変わってないし

どういう気持ちで言ってるんだ


でも本当にどうやって帰ろう

連絡できそうなものは壊れちゃったしここはよく分からないし夢でも覚めないし

私が今するべきなことって


ここから出ることじゃないかな


少なくともここに居ても仕方ないのは変わりない
いやどこに行ったって帰れないなら仕方ないけど、それこそここでじっとしてたって始まらない
それは本当にそうだと思う

いや、どのみち帰れないのに屋根も無いとこ行くのはもちろん怖いし夢だと信じてここでじっとしていたいんだけど

ここは人の部屋で私が居ることがバレたら大変なことになるんだし


……一刻も早く出るべきだよね


「あのっ…私すぐここ出ようと思います……いつの間にかここに来たぐらいなんで、いつの間にか帰れるかもしれないんで。」


「………そっか……でも、ここから出るのに誰にも見つからないようには、多分できないよ。」


「えっ。」


「仮にも騎士団の本拠地だし……昼も夜も見張りはいるよ。」


急な行き止まり

嘘じゃん


もうまじなんなんだ一体私が何したっていうんだ

神様がいるなら私の罪を教えてほしい


「…………。」


何か案を出そうと思っても思い付かない

無謀なことを言おうとして口を開くが、顔を上げた先に見えた青い眼に口を閉ざさるを得なかった


「食べないの?」


「えっ」


喋る勇気が湧かなくて、つい俯くとそう言われた

この流れで若干ズレた言葉に瞬きをした


「あ……」


何のことか一瞬分からなかったけど中途半端にちぎったパンを見て思い出す


「す、すみません……。」




正直味は覚えてない
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