羊頭狗肉

□開いた
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結局卒業試験は勝つことはできなかったけれど何とか無事に終えることができた
けど一息もつく間もなく、部屋に戻ろうと船から下りグレン団長から午後の予定を聞いてすぐに寮に足を向けた

けど


「やったなラズロ!」


「これで見習い卒業だね。」


捕まった


「う、うん……。」


タルやジュエル達が船から下りながら話を投げ掛けてきた
卒業試験も終わったからか、顔が晴れやかだ
空もいつもより晴れやかだ
反対に僕の心境は曇りも同然だ

団長に勝てなかったのもあれば部屋に置いてきたあの子も気になる

でも色々気になる中でも皆と試験を合格できたのを喜びたい気持ちもある
けどそうは言ってられない


「この後は卒業記念パーティだね!あたしたちの代はスノウもいるし、豪華になるかもね!」


「スノウの父ちゃんはスノウ溺愛だもんなー、
晩飯の事考えるだけでも腹減るぜ。なあラズロ!」


「そ、そうだね。」


早くこの場を切り上げたい為に話を煽るような事を言わず寮に向かう足を止めないで聞くだけにしているが盛り上がってしまっている

いっそ急いでると言って一人で戻ってしまいたいけどタルに肩を組まれて先に行けない
狙ってるのかとも思う

走って行きたいけれどそうは行かない空気に心ばかり焦る


「……あ、あのさ、タル、僕ちょっと」


「ラズロ!」


肩に置かれてる手をつかんで喜んでいる空気も読まずに一人この場から消えようかと口に出したときに
自分を呼ぶスノウの声が聞こえた
ついため息が出た


「……な、何、スノウ。」


「……?ラズロ、何か顔色悪くない?」


ポーラがいつのまに居たのかジュエルの隣から俯き気味の僕の顔を覗き込むように上半身を屈めて言った


「え?そうなのか?大丈夫かよラズロ。」


タルが乗せていた腕を退けて僕に注目して言う

よし
この期に乗じて早く帰らせてもらおう


「あ、う、うん。団長と戦ったから、ちょっと疲れたのかも……。」


別に全然そんなことは無いし、心配かけるのも悪いけど人ひとりの命が懸かってるから嘘を突き通そう


「えー、せっかく今日は御馳走食べれるのに体調崩すなんてもったいないよ!
まだ午後の予定には時間あるから今のうちに休んだ方がいいよ。」


「うん。そうさせてもらおうかな…。」


「じゃあ、僕が部屋まで付き添うよ」


これで部屋に戻れる

と内心ホッとしたところでスノウがそう言った


「……え。」


「体調が悪いんだろ?もし途中でふらついたりしたら大変だし…送るって程じゃないけど、部屋までは」


「い、いいよ。ちょっと疲れただけだから、大袈裟だよ。一人で行くよ。一人で」


無骨かもしれないけど部屋まで付いてこられたりなんてしたらそれこそやばい


自分でも不自然に思うぐらい一人で、を押しきって
体調が悪いという理由のために走らずに落ち着いた風貌で歩いて向かう

これで


もう見つかってました


なんてしてたらどうしよう
まだ起きてないといいけど

でもあの子が無事だったとしてもそれからどうすればいいだろう
他の人には頼れないし、ましてやスノウに言うなんてできないし団長もやっぱり立場がある

見ず知らずの人間を騎士団で公にしない。なんてこともできないだろうし
何よりあの子がどこか敵国の……とかじゃないことを願う


考えながら歩いているといつのまにか駆けるような速さだったことに気付き

敵か何かも知らない女の子にどこまで心配してるのか自分でもちょっと呆れた気持ちになる


騎士団寮の扉まであと数歩になると焦りのせいか眉間に力が入っているのを自覚する

取っ手に手をかけ、いつもより重めに感じる扉を開けると


「う、わ」


誰かが扉に引っ張られて出てきた

足元に顔を向けているから顔は見えないけど
その人は見慣れない服装をしていて耳に届いた声は女性のものだというところまでは分かった

その人は一瞬固まり、弾かれたように僕の方に顔を上げた
こっちを向いたとたんにバッチリ目が合い、確認できたのは


「…………。」


落ちてきた彼女だった


「え……。」


僕の顔を見て少し意外そうなびっくりした顔をし、そのまま数秒経ったかと思えば怖がる表情に変わった


「あっ……」


その子の声が芯に響くような感覚がした

ハッと引き戻された

そうだ
この子は他の人に見つかったら駄目なんだ
どうなるか分からない

しかもこの子は今僕に怖がる表情を見せたということはこのまま逃げる行動に移る確率が高い
それはまずい


「っ……!」


後ろに人が居ないことを確認し、誰も来ない内に反射で口を手で押さえ付けて自室まで一直線に走り乱暴に飛び込んだ

大丈夫。誰にも見られてない

乱暴に開けた反動で扉も閉まり、何とか鬼門は抜けたようだ
この一瞬で凄い疲労感を得た体は自然と呼吸を荒げ、女の子を下敷きにしていることも忘れて大きく息を吐いた
 

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