羊頭狗肉

□テンプレ 墜落 箱のなか
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騎士団の寮の中でも、ちょっと特殊な場所に自分の部屋はあてがわれている

それも僕がこうして使う前は部屋としてではなく物置として使われていたから殺風景な簡素なところだ


元より私物の少ない僕にはそれが大して問題のあることではなかったし、生活に最低限の物さえあれば特に思うことはない


そんな部屋でも、部屋の隅に置いた唯一ある収納用の箱がある

それもきちんとした棚とかでもなく、物置き時代からあった空き箱をもらったのだが……


今はそこに女の子が入っている






これまでの行動をかいつまんでいうと

これから向かう騎士団に入るための卒業試験を目の前に、余計な手荷物をしまおうと箱を開けた途端


上から女の子が降ってきた


騒がしいタイプでは無いと思うが、驚きのあまり声も出なかった

我ながらよく避けたなと思うと同時にどうしようと悩む

どうしようというより、どうしたんだという気持ちだけど



気を失っているのか目を閉じて動かないその顔を見て、誰かを確認しようとするも覚えの無い人だった


騎士団の中じゃ割合男の方が多い上に、これくらいの年齢の女の子は最年少のジュエルだけだし、長年暮らしてきたこの町でも見た覚えは無い

もし僕が覚えてないだけだったとしても、この状況は変すぎる


上から降ってきたということは、と顔を上げて石造りの天井を見た

女の子が落ちてきたのと一緒にこの天井が崩れてきたということもないし、ただ音もなく人が降ってきたということだけだった


だからもちろん石の天井に穴が空いていたりなんて事はなく、ヒビ一つ無い

いつもと何変わりない様子でそこにある

視線を女の子に戻しても、ピクリとも動かず落ちてきた時と全く同じ態勢で気を失っている


「……」


しんとした空気の中

とりあえずずっと箱の中というのも可哀想なので箱から出ている部分に手を入れて持ち上げる


肩を支えて動かしたせいで首が力無く傾いた

一瞬死んでるようにも思えたが、息はしている


格好を見る限り知らない国の人のようで、遠い国の紋章の力かなんかでここに飛ばされたのかななんて、初めて目にするひとつひとつに、まじまじと顔や服装を眺めてしまう


「………………」


ふと失礼だと顔を反らして自分のベッドに寝かせてあげた


「……カタリナさん……」


見たところ服は無傷
特に異常無さそうに見受けられる

露出しているところにも怪我したような感じはないけど、落ちてきたことだしどこか打って悪くしてるかもしれない
治癒に長けているカタリナさんに診て貰おうと扉に体を向けた



「……」



けど


そこでこう考えた


この女の子の身の出所はもちろん分からない

ここら辺じゃ見たことない珍しい格好

そして何の力か分からないけれど突然落ちてきた

そんな人を副団長に見せたりなんかしたら





……やめておこう


扉に向かって歩こうとした足を止めて、振り返って起きそうもないベッドの上の人物を見る

よりにもよってここは騎士団だ

おそらくろくな事にならないのはまだ騎士見習いの僕にだって分かる
今日で卒業だけど

この人には悪いけど起きてくれるまでしばらく様子を見ることにして、とりあえず今はこれからの騎士団訓練生の卒業試験に向かうことにしよう












「ラズロ、どこに行ってたんだ。探したよ」


これから出航だよ。と、少し怒ったように硬い表情で同期のスノウが駆け寄ってきた


「ごめん。余計な荷物を…整理したくて……うん…。部屋に戻ってた」


あの子の事は説明せずに当初の目的だけを話した

…嘘は言ってない


これから出航だから同期の訓練生達が皆集まってきている
その大勢の中でも、この島ラズリルの領主の息子のスノウは特別に鎧が違ってとても目立つ

本当の騎士になったら一体どんな豪華な鎧になるのかと密かに気になっている


「これで見習いの肩書きも卒業だね…」


スノウが出航準備の整った船を見て少し遠い目をしながらそう呟いた

ただの独り言では無いだろうけど話しかけている様子では無いその言葉、スノウがよくやる癖のようなもの
昔からの付き合いの今は、無言にただ頷くだけ


「よっラズロ、スノウ!」


今から同じ船に乗るタルとジュエルが片手を挙げながらこっちに来た

ラズロ見つかったんだね
と、迷子の話題かのようにジュエルがおちょくってくる


「うん。自室にいたんだって」


「もー、仕事中だってのに!」


ジュエルの言葉にスノウが困ったような笑みを浮かべる
ジュエルとタルに小さい説教をされた


「そんなんできるのはまだ敵地にも出向かせてもらえない見習いのうちだけだぜ」


スノウに言ったのと同じように謝るとケネスがいつの間に居たのかひょっこりと顔を覗かせる


「その見習いも今日で終わりだけどな」


とだけ言うと、僕たちを追い越して船に向かって行った

続いて来た長い耳が特徴のエルフのポーラも僕たちを横切って


「卒業できれば、の話だけどね」


とポソリと不謹慎な事を言い残して行った
皆苦笑いでポーラの言葉に不服な物言いをしながら船に向かった
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